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「僕らは箕島を残せるんだろうか…」あの甲子園連覇の“名門公立校”で定員割れ、衝撃の倍率0.74「本当にきついです…」箕島野球部監督の告白 

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曹宇鉉

曹宇鉉Uhyon Cho

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posted2025/08/18 11:21

「僕らは箕島を残せるんだろうか…」あの甲子園連覇の“名門公立校”で定員割れ、衝撃の倍率0.74「本当にきついです…」箕島野球部監督の告白<Number Web> photograph by NumberWeb

和歌山県立箕島高校のグラウンド。春夏合わせて4回甲子園優勝している

 かつての名門に何があったのか――そんな問い自体が空転するような、克服しがたい現実。かつては決して素行のいい生徒ばかりではなかったという箕島だが、PL学園のようにスキャンダラスな事件があったわけではない。それでも、公立高校で唯一の甲子園春夏連覇という威光は次第に輝きを失っていった。

「私学へ行ってしまう」「智弁さんがトップ」

 監督の北畑は選手集めに奔走した。だが、有望な中学生たちにとって第一の選択肢になるのは私立の強豪校だった。

「まず私学に行ってしまう。このあたりからも、大阪桐蔭、報徳学園、尽誠学園とか、県外に進む。北陸に行くという子もいました。奈良の智弁学園や天理、京都国際を選んだ子もいます。ただ最近の智弁和歌山に関しては県外の子が多いですし、取る人数も少ないですから、中学生もぶっちゃけ諦めてるんちゃいますかね。いまの子にとっては、生まれたときから智弁さんがトップで、憧れ。それはもう間違いないです」

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 1979年の春夏連覇をひとつの頂点とした箕島の全盛期は、80年代前半に終わりを告げた。入れ替わるように80年代後半から和歌山県で台頭したのが、いまや全国屈指の野球名門校となった智弁和歌山だった。夏の甲子園は1987年の初出場を皮切りに、2025年まで28回出場。2018年の夏を最後に高嶋仁が勇退し中谷仁が監督になって以降も、盤石の強さを誇っている。

 県内で智弁和歌山に次ぐ存在といえる市立和歌山は、スポーツ推薦による入学者選抜を行っている。いずれにせよ、和歌山県内の有望株の多くは県内外の強豪校へと進んでいく。その次のクラスの選手たちの選択肢になるのが、北畑が「本来、うちに野球で入るような子が入れちゃう」という耐久などの公立校だ。ごくかぎられた人材を地道に勧誘しても、箕島が選ばれることは少ない。北畑の「本当にきつい」という言葉には、相当な実感が込められていた。

「それでもやっぱり、足を運ぶしかないと思いますね。地元の子を中心に声をかけていくしかない。今年も夏の大会が終わったら、もう一回。こういう状況なんでね。とにかく足を運ぶしかない。そもそも僕自身、うまい子だけを集めるのは好きじゃないし、得意でもないですから」

「正直、お金はないです」

 予算的にも厳しい戦いを強いられている。自前のグラウンドはあるが、練習設備は決して真新しいとは言えない。野球部部長の中尾慎太郎が説明する。

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