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「僕らは箕島を残せるんだろうか…」あの甲子園連覇の“名門公立校”で定員割れ、衝撃の倍率0.74「本当にきついです…」箕島野球部監督の告白 

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曹宇鉉

曹宇鉉Uhyon Cho

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posted2025/08/18 11:21

「僕らは箕島を残せるんだろうか…」あの甲子園連覇の“名門公立校”で定員割れ、衝撃の倍率0.74「本当にきついです…」箕島野球部監督の告白<Number Web> photograph by NumberWeb

和歌山県立箕島高校のグラウンド。春夏合わせて4回甲子園優勝している

「160人の枠に約90人ですから、70人も割っている。学校としての活気もなくなってきますよね。39年連続でインハイに出ていたソフトボール部の部員はゼロになって休部状態。ホッケー部も全国レベルでしたが、いまは4人しか部員がいない。最近では、有田市や有田郡の子どもたちの半分くらいは県の北側の高校に行きます。向陽、星林、海南といった公立の進学校ですね。商業高校なら県立和歌山商。あとは湯浅町の耐久です」

「僕らは箕島を残せるんだろうか…」

 有田川の南、紀勢本線で箕島駅から12分の湯浅駅が最寄りとなる耐久高校は、北畑の母校でもある。1852年創立の同校は箕島よりも進学実績に優れており、国公立大学のほか「関関同立」や「産近甲龍」といった難関・中堅私大に多くの卒業生を送り出している。また2024年の春には、野球部創部119年目にしてセンバツに初出場し甲子園の土を踏んだ。

 その耐久でさえ定員割れを起こしている。2025年の出願者数は200人の定員に対して195人。倍率にすると0.98になる。ある程度の学力と内申点をキープしておけば、入学すること自体は難しくない。対して箕島の倍率は普通科系(普通コース、スポーツコース)が0.74、専門学科系(機械科、情報経営科)は0.35。なお、和歌山の県立高校全体の志願倍率は0.86だった。どちらにせよ定員は割れているのだから、近隣の中学生や保護者は進路面でのアドバンテージがある耐久を選ぶ――そんな現状が浮き彫りになる数字だ。

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「勝つというよりも、まず存続。僕らは箕島を残せるんだろうか、という危機感はあります」

 有田市の人口は1980年の3万5683人をピークに、2020年には2万6538人まで減少した。少子高齢化も顕著で、1990年に6569人だった14歳以下の人口は2020年時点で2769人。2024年には、市内の4つの中学校が統合され有田市立有和中学校が開校した。

 箕島高校への道すがら、隈研吾の建築に特徴的な木材による意匠が施された有和中学校の新校舎を目にした。手癖のように演出される「木のあたたかみ」と、人口ピラミッドが示す寒々しい現実が、残酷なコントラストを描く。大都市圏を除いた日本の多くの市町村と同じように、この街も確実に衰退しつつある。

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