甲子園の風BACK NUMBER
甲子園“あの名門公立校”が2回戦敗退…やまびこ打線・池田高で見た“40年前との差”「今の高校野球は過渡期」敗退2日後、監督が記者に打ち明けた胸中
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田中仰Aogu Tanaka
photograph byNumberWeb
posted2025/08/03 11:01
今夏の徳島大会。池田高校は2回戦で敗れた
しかし、やめた。井上はきっと、再びこう答えただろう。「それは、ないです。池田である以上、毎年てっぺん狙ってます」。消えた道筋を迷いながら進んでいる。名門と呼ばれた池田であるがゆえに、甲子園を目指さないという選択肢はないのだと。
「今の高校野球は過渡期だと思うんです。慶応さんの優勝もありましたけど、子どもたちがチーム、個人の目標を立てて、その到達のために大人がサポートする――そのように時代の流れは大きくシフトしている。それはわかってるんです。わかってるんですけど、うちのチームの場合、基礎的な部分も含めて地道に教えなきゃならない部分もある。選手ファーストで子どもが自主性を発揮しやすい環境にしたいと反省するんですけど、まだ現実問題、慶応さんのようにはできない。そこのバランスがね、難しいんですよね」
蔦文也の池田、現在の池田
おそらく、井上はすべてを背負おうとしすぎているのだ。伝統も流行も。しかし、今の池田に求められているものは「池田の野球」というビジョンではないか。伝統にも流行にも縛られないような。批判の声が上がっても信じ抜けるような、何か。蔦文也の場合、苦肉の末にたどりついた打撃特化型がそうだった。ならば井上は――。
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鳴門渦潮との2回戦。3回裏、スコアは0-2。池田が1死一、三塁のチャンスを迎える。2番・幸田武流が打席に立った。
この場面でテレビ放送の解説者は言った。「ここはスクイズでいいと思います」。だが、幸田にバントの気配がないと見るや、その解説者は明らかに疑問を呈する口調で再び繰り返した。「スクイズでいいと思いますね」。結果は三振。無得点に終わった。取れる時に点を取っておかなければ終盤が苦しくなる。試合はそのとおりになった。終盤に3点追加されて0-5で敗れた。あのシーンで1点でも取っておけば、展開は変わったかもしれない。
しかし、と思った。試合を見ていた私は「スクイズを選ばなかった判断」にこそ、池田の希望を見たような気がした。定石のバントを無視して打ち勝った40年前の池田。無得点に終わった現在の池田。その差を直視すればいいのだ。そしてこうも思った。井上は今でも、打ち勝つ野球を諦めていないのではないか。
敗退2日後、届いたメッセージ
鳴門渦潮戦の敗退から2日後。井上からメッセージが届いた。


