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巨人電撃トレード張本勲⇔“放出要員2人”も江夏豊⇔江本孟紀も移籍成功だった一方で…江川卓⇔小林繁「空白の一日」は不幸な人間ドラマ
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広尾晃Kou Hiroo
photograph bySports Graphic Number
posted2025/06/30 17:08
張本勲と江夏豊。球史に残る大打者と大投手もトレード経験者である
【「空白の一日」に関わる江川卓のトレード劇 1978年】
法政大学時代、東京六大学リーグ史上2位の47勝を挙げた江川卓は77年ドラフトでクラウンライターから1位指名を受けるもこれを蹴ってアメリカに留学。翌78年のドラフト会議の直前に帰国し、前日の11月21日、「空白の一日」に巨人と契約した。
しかしセ・リーグ、NPBはこれを認めなかった。これに反発した巨人は翌日のドラフト会議をボイコット。阪神が江川の指名権を獲得した。世間が騒然となる中、金子鋭コミッショナーは「江川と巨人選手のトレードが望ましい」という「強い要望」を表明する。
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翌79年1月31日、巨人首脳陣は、宮崎の春季キャンプに向かおうとしていたエース小林繁を羽田空港から呼び戻し、江川卓とのトレードを通告した。この時点での両投手の実績。
阪神→巨人
江川卓 投手 23歳
プロ野球の実績なし
巨人→阪神
小林繁 投手 26歳 6年
206登62勝39敗13S
873回534振 率3.12
沢村賞1回、ベストナイン1回
前代未聞の「新人選手とエースの交換トレード」。世間の批判は、巨人、江川と阪神にトレードを要望した金子鋭コミッショナーに集中し、金子コミッショナーは辞任。小林は2月10日に阪神の高知、安芸キャンプに合流した。
小林は巨人相手に8連勝も“不幸な人間ドラマ”だった
江川卓は開幕2カ月間は一軍昇格なし。1年目は9勝10敗161回、防御率2.80に終わる。小林繁は古巣巨人戦に激しい闘志を燃やし8連勝、この年22勝(最多勝)9敗273.2回、防御率2.89で2度目の沢村賞、ベストナインに輝いた。
〈移籍球団での通算成績〉
江川卓 9年
266登135勝72敗3S
1857.1回1366振 率3.02
最多勝2回、最優秀防御率1回、最多奪三振3回、MVP1回、ベストナイン2回
小林繁 5年
168登77勝56敗4S
1156.1回739振 率3.23
最多勝1回、沢村賞1回、ベストナイン1回
小林は5年目のシーズン中にこの年限りでの引退を表明、31歳だった。江川卓も9年目に32歳で引退。ともに選手生活を全うしたと言うには短すぎる現役生活だった。2人は「強引すぎるトレード劇」で深く傷ついていたのではないだろうか。
「トレード」は悲喜こもごもの「人間ドラマ」ではあろうが、こうした不幸なドラマは二度と見たくないというのが、率直な印象だ。
落合に牛島、秋山に糸井も大型トレード経験者
戦力補強といった意味での大型トレードは、昭和末期から平成の世にかけてもたびたび起きた。落合博満に牛島和彦、秋山幸二に佐々木誠、そして糸井嘉男――その名前を眺めるだけでも、球史に残る名選手が名を連ねている。〈つづく〉


