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「偉そうに腕組んで見てんじゃねぇ!」に「よぉし」と長嶋茂雄が走り出し…中畑清が語るミスターとの“地獄のキャンプ”「雲の上から降りてきてくれて」 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph bySankei Shimbun

posted2025/06/25 11:01

「偉そうに腕組んで見てんじゃねぇ!」に「よぉし」と長嶋茂雄が走り出し…中畑清が語るミスターとの“地獄のキャンプ”「雲の上から降りてきてくれて」<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

若手時代の中畑清に、「地獄」と言われた伊東キャンプで自ら打撃指導をする長嶋茂雄監督。のちに巨人の主力となる中畑の礎を築いた

 中畑がにじませる喜びのなかには、長嶋との距離が近くなったことも内包されている。

 弔辞でも触れていたように、キャンプ終盤の馬場の平でこんなことが起こった。

 中畑が後輩選手の篠塚をけしかける。

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「おいシノ(篠塚)、お前が言ったら監督は走るから。走らせろ」

 すると篠塚が、中畑の予想を上回るほどの好戦的な姿勢を演じて監督を煽った。

「偉そうに腕組んで見てんじゃねぇよ!」

 監督が選手の挑発を買う。「よぉし!」と威勢よくスタートを切ったものの、ゴールする頃には中畑たちがキャンプ序盤で見せていた以上に疲れ切った長嶋がいた。

「どんどん雲の上から降りてきてくれて」

 この瞬間、中畑がそれまで抱いていた「長嶋茂雄」の偶像が一新されたのだという。

「それまでも俺たちと一緒に汗水流して、泥んこになって、怒鳴って笑ってね。どんどん雲の上から降りてきてくれている感じはあったんだけど、あの頃にはもう兄貴と弟みたいな空気感になっていたよね。それは長嶋さんが作ってくれたもんだったんだよ」

 79年秋。中畑にとっての長嶋は、憧れの存在から鬼の監督となり、そして兄となった。それまで偉大だとしてきたV9への想いも、強き覚悟へと心の装いが変わっていく。

「今までに感じたことがなかった限界を超えられたからこそ、裏付けっていうものができたんだと思うね。『これだけやれたなら、俺たちがジャイアンツの屋台骨を支えていけるんじゃないか』って。そういう強い気持ちに変えてもらったよね、長嶋さんに」

 長嶋は1カ月の地獄で種を蒔いた。

 中畑が前年を上回る22本のホームランを放つなど、伊東キャンプの成果を発揮した80年。シーズン終了後に長嶋は監督を退任した。同時に「ON」としてともにチームを支えてきた王貞治も引退と、「V9時代」の終わりとも言われた1年となった。

 そして、次代の戦士たちが花開く。

【次ページ】 「ミスター」には反応も「オヤジ」には…?

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