- #1
- #2
野球クロスロードBACK NUMBER
「偉そうに腕組んで見てんじゃねぇ!」に「よぉし」と長嶋茂雄が走り出し…中畑清が語るミスターとの“地獄のキャンプ”「雲の上から降りてきてくれて」
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph bySankei Shimbun
posted2025/06/25 11:01
若手時代の中畑清に、「地獄」と言われた伊東キャンプで自ら打撃指導をする長嶋茂雄監督。のちに巨人の主力となる中畑の礎を築いた
藤田元司が監督となった81年。長嶋の現役時代の定位置だった「4番・サード」を継承した中畑は、キャリアハイの3割2分2厘をマークした。江川が20勝、西本が18勝と、地獄を乗り越えた18人の多くが主力として新生巨人を支え、V9以来となる8年ぶりの日本一となり長嶋との約束を果たした。
89年に自身2度目の日本一を花道に引退した中畑には、長嶋への「憧れ」がまだ残っていた。それは、代名詞である「ミスター」と本人に向かって呼ぶことだった。
「V9戦士のみんながさ、『ミスター』って言いながら普通に会話していてね。俺も呼んでみたかったんだよ」
ADVERTISEMENT
あれは、引退して初めて長嶋たちとゴルフに行ったときだった。ラウンド中に自分の前を歩く長嶋に、中畑は勇気を出し、声を掛ける。張り上げるというより、絞り出すといったほうが適していたかもしれない。
「ミスター……!」
長嶋がすぐさま振り返り、呼応する。
「おぉ、どうしたキヨシ!」
体が震え、喜びに包まれる。
「俺にとって長嶋さんは“永久監督”だから、本当はずっと『監督』と呼ばなきゃいけないんだけど、どうしても呼んでみたかったのよ。そうしたら反応してくれてさ。あれは夢が叶った瞬間だった!」
「ミスター」には反応も「オヤジ」には…?
ミスターとキヨシ。さらに距離を縮めた中畑に、新たな憧れ――欲望が芽生える。この時すでに実父が他界していたこともあり、「オヤジ」と呼んでみたかったそうなのだ。
長嶋の監督第二次政権でコーチとなった中畑は、職を辞することとなる94年に、球団の納会でそのチャンスを窺っていた。
今度も背後から声を掛けた。
「オヤジさん!」
長嶋からのリアクションがない。当時を思い出し、中畑が爆笑していた。
「無視された、はははは! あのときの俺は長嶋さんをオヤジのような存在にも思っていたんだけど、やっぱり『ミスター』が一番合う人なんだよな」
そしてその“ミスター”の存在は、長い時を経て中畑のDeNA監督就任の決断にも大きな影響を与えることになる。
【「代表監督長嶋」編につづく】

