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甲子園の風BACK NUMBER
「風評被害はありました」全校生徒89人“ナゾの新設校”エナジックで甲子園出場…神谷嘉宗監督とは何者か?「ケツバットで野球部を辞めた」意外な経歴
text by

松永多佳倫Takarin Matsunaga
photograph byJIJI PRESS
posted2025/06/23 11:03
エナジックスポーツ高等学院野球部の神谷嘉宗監督(70歳)。その指導の源泉には、かつて味わった理不尽な経験があった
新設校のリアル「風評被害はありました」
しかし、出だしは決して順風満帆ではなかった。
「まだ学校もできていない、グラウンドも整備されていない、通信制課程からスタートしたエナジックに対しての風評被害はありました。SNSでもつぶやかれていました。こっちが言って止まるものじゃないですから。要は僕らがきちんとやっていればいいんです。昔から高校野球っていうのは、新鋭校が出ようとすれば足を引っ張る人がいるんですよ。強豪校は強豪校の流れがあるし、こっちが選手を勧誘しようとすれば、ライバル校が横槍を入れる。そんなことは昔からあるもんです。資本主義社会である以上、他の世界でも似たり寄ったり。仕方ないでしょう。だから我々は、きちんと生徒たちを教育して、生徒と保護者と学校が三位一体でうまく回っていれば、外部の声はそんなに気にすることはありません。気にしてもしょうがありません」
新しいものが突出しようとすると、周りが抑えにかかる。その摂理は高校野球でも変わらない。
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沖縄には「いちゃりばちょーでー」という言葉がある。一度会えばみな兄弟、といった意味合いのウチナーグチ(沖縄方言)だ。人との繋がりを大事にし、みんなで文化、伝統を大切にしていく――それ自体は素晴らしいことだろう。しかし、みんなで仲良く一緒にやろうとする気持ちが強いばかりに、誰かが抜きんでてしまうと、それを抑え込もうとしたりパージしたりする力学が働くこともある。
神谷はエナジックで監督をやるハードルの高さを最初から承知していた。新設校ならどこにでもあることだと楽観的にとらえて、あえて美里工業時代と同じく「3年で甲子園に出ます」と壮大な公約を掲げた。不可能にも思えたその公約は、2025年春のセンバツで果たされることになる。
<後編へ続く>

