革命前夜~1994年の近鉄バファローズBACK NUMBER

「態度悪いですよね。でも…」“胴上げに背を向けた男”吉井理人の感情の激しさを鈴木啓示は認めなかった「監督と選手の心の絆が薄れていた」 

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喜瀬雅則

喜瀬雅則Masanori Kise

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posted2025/06/13 11:08

「態度悪いですよね。でも…」“胴上げに背を向けた男”吉井理人の感情の激しさを鈴木啓示は認めなかった「監督と選手の心の絆が薄れていた」<Number Web> photograph by KYODO

1993年、プロ初完封をマークした吉井(右)を称える鈴木啓示監督。だがワンマン体制のもと、選手と監督の心の距離は離れていった

 1989年の日本シリーズ。近鉄が3連勝で初の日本一に王手をかけながら、ヒーローインタビューで、加藤哲郎の「巨人はロッテより弱い」と受け取られる“侮辱発言”が物議を醸すと、そこから巨人が4連勝。吉井も7戦中5試合に登板しているが、第5戦の7回、それまで打撃不振だった巨人・原辰徳に満塁弾を浴びるなど、第3戦で1セーブを挙げたのみにとどまり、どこか精彩を欠いていた。

 そして近鉄は、オリックスとの球団合併で、2004年に55年の歴史を終えた。その間に、一度も「日本一」にはなれなかった。

アスリートが感情を出すことの是非

 感情を抑え切れず、その思いを引きずってしまったという若き日の悔い。しかし、その“情熱の発露”は、緊張感の中で体中にアドレナリンを巡らせ、心身を削りながらぎりぎりの勝負を繰り広げるアスリートにとっては、むしろ自然な反応でもある。

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 当時の吉井は、自分の感情に正直だったとも言えるのだ。

 監督という立場になった今、胴上げに背を向け、交代に怒ってボールを蹴飛ばすような選手が出てきたら、やっぱり、とんでもないことですか?

 ちょっと意地悪な質問をぶつけてみたら、吉井は「いや、そうでもないですよ」と、選手たちには、グラウンド上で感情を表に出すことを、ある程度は“容認”したいとする、指揮官としてのポリシーを説明してくれた。

「今、もし選手たちがそんな風にしても、自分は何とも思わないですよ。悔しさの表れなんでね。まあ、ボールを蹴飛ばすのはどうかとは思いますけど、ベンチとかで人目を憚らず感情を表したりとか、そういうのは、むしろそういうのが出た方が、そこで切り替えて次に向かえるんだから、いいんじゃないですかね。

 悔しいのに悔しくないふりをして、しれーっとされている方が、もしかしたら、ホントに悔しくないのかな、って思うじゃないですか。そっちの方が見ていて心配になりますよ」

吉井が諌められたわけ

 日本では、感情を露わにすることを、自分を制御できていないと咎める向きが強い。公衆の面前で無作法な振る舞いをするのは見苦しい、相手にも失礼だというわけだ。

【次ページ】 愛弟子・佐々木朗希の小さな“事件”

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