革命前夜~1994年の近鉄バファローズBACK NUMBER
「態度悪いですよね。でも…」“胴上げに背を向けた男”吉井理人の感情の激しさを鈴木啓示は認めなかった「監督と選手の心の絆が薄れていた」
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKYODO
posted2025/06/13 11:08
1993年、プロ初完封をマークした吉井(右)を称える鈴木啓示監督。だがワンマン体制のもと、選手と監督の心の距離は離れていった
鈴木啓示監督や近鉄の球団フロントが吉井の行動を諫めたのは、まさしくその理屈だ。
2025年、吉井の率いるロッテで主将を務めているのは、プロ8年目の内野手・藤岡裕大だ。吉井によると「彼なんか、結構気性が激しいんで、割と態度に出るんです」という。
「本人はキャプテンになったんで(感情を出すような行動を)『やったらダメかな』って悩んでいたから『いやいや、全然いいから、怪我だけはするなよ』って言いました。感情を出すのはOKです。それで気持ちが切り替わるんやったらね」
愛弟子・佐々木朗希の小さな“事件”
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そして、海の向こうでも、若き日の吉井を彷彿させるような、愛弟子の見せたちょっとした“事件”があった。日本時間の2025年3月30日、ドジャース・佐々木朗希はタイガース戦に先発したが、2回途中2失点で降板している。
その時、日米のメディアで問題視された「3つの行動」があった。
監督のデーブ・ロバーツが、マウンドへ向かった。メジャーでは、交代を告げられた投手が持っているボールを監督に手渡すのが通例。ところが佐々木はロバーツに渡さず、三塁側のボールボーイに向かって、自分の持っていたボールを投げたのだ。
試合後、ロバーツに集中した質問は「無礼ではないのか?」。
さらに、マウンドを降りた佐々木は、ベンチにとどまることなく、そのままロッカーへと向かった。塁上に自分が出した走者が残っているケースでは、降板後もそのままベンチにとどまり、リリーフ投手に声援を送って、戦況を見守るのがメジャーでの“当たり前”だ。
ロバーツは、佐々木を追いかけてロッカーへ向かった。メジャーのしきたりを教え、注意したのだろう。すぐに佐々木はベンチへ戻って来た。これに関しても、ロバーツは「ちょっと話をしたかっただけ」と不文律を破った佐々木の行動に関して、公然と咎めることはしなかったが、ここでもう一つ、佐々木が問題視された“態度”があった。

