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レース前にペースメーカーを務め…タフすぎる田中希実も驚く「31歳の母親キピエゴン」の“不可能に思える挑戦”とは?「聞いただけでもワクワクします」
text by

和田悟志Satoshi Wada
photograph byL) Nanae Suzuki / R)NIKE
posted2025/06/10 17:00
田中希実(左)が1500mの世界記録保持者キピエゴン(右)の“驚きのチャレンジ”について語った
その田中が主戦場としている女子中長距離、とりわけ彼女が東京五輪で8位入賞を果たした1500mにおいて、圧倒的な実績を誇るのがケニアのフェイス・キピエゴンだ。このキピエゴンの存在も、田中に大きな刺激を与えている。
先日、キピエゴンが女子選手で初めて1マイル4分切りに挑む“Breaking4”なるプロジェクトが発表された。1500mの世界記録保持者であり、五輪3連覇という偉業を成し遂げた彼女が新たな領域に足を踏み入れようとしているのだ。
女子の1マイル世界記録はキピエゴンが2023年に打ち立てた4分7秒64。1秒を削ることさえも大変なこの種目で、一気に8秒も短縮しなければならないのだから、このプロジェクトがいかに困難な目標設定をしているかがお分かりいただけるだろう。
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「1マイル4分を切るには、トラック1周(400m)を60秒を切って走らなければいけません。私は400mだけでも、そのペースで走れません。中長距離の日本人選手で走れるのは、田中さんや800mを主戦場とする久保凛さんとか、そんなに多くないと思いますよ」
こう証言するのは、パリ五輪女子10000m代表の五島莉乃だ。専門種目が異なるとはいえ、トラックを主戦場としてきた五島にこう言わしめるほど、難易度は高い。
キピエゴンの挑戦「ワクワクする」
不可能とも思えるキピエゴンの挑戦をどのような思いで見ているのか、田中にも聞いてみた。ナイキ主催の“Breaking4”について、ニューバランスのサポートを受ける田中に聞くのは失礼なことかも、と懸念をした上で質問をぶつけたが、田中は意に介さず真摯に答えてくれた。
「彼女には、去年、一昨年と、1マイル以外でも、今までたくさんの種目で“殻を破る”姿っていうのを見せていただいています。
ひと昔前は、男性というか人間がその域にいけないと言われていました。それに女性がチャレンジをすることは、聞いただけでもワクワクします。最初から無理だって決めつけるんじゃなくて、人間の可能性を最後まで信じる姿勢っていうのは、私自身、すごく刺激を受けています」
キピエゴンのプロジェクトは、少なからず今回の田中のチャレンジにも影響を与えていたのではないだろうか。現在25歳の田中はこうも話していた。
「自分はまだまだ体ができていないというふうに捉えていて、何年後かでも、それこそ、キピエゴン選手のように、年齢が上がるにつれて、自分の体の扱い方を整えていくような選手になりたいと思います」
“Breaking4”は6月26日にパリで結末を迎える。成否を問わずとも、母親であり、31歳になったキピエゴンのチャレンジは多くの女性アスリートにとって希望となるだろう。
田中もまた、自身にまだまだ伸びしろがあると信じているからこそ、さらなる成長を遂げるために挑戦を続けていくはずだ。



