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レース前にペースメーカーを務め…タフすぎる田中希実も驚く「31歳の母親キピエゴン」の“不可能に思える挑戦”とは?「聞いただけでもワクワクします」
text by

和田悟志Satoshi Wada
photograph byL) Nanae Suzuki / R)NIKE
posted2025/06/10 17:00
田中希実(左)が1500mの世界記録保持者キピエゴン(右)の“驚きのチャレンジ”について語った
「タイムだったり中身だったりの目標を立てて臨むようなレースにはならないと思っていて、どんな展開でも“気持ちを折らない”ということをテーマに据えていた。自分の内的な気持ちの部分ではテーマを貫けたかなと思います」
このレースで優勝したのが、オーストラリアのジョージア・グリフィス。2位の田中を挟み、3位には同じオーストラリアのサラ・ビリングスが入った。実は、この2人の存在が田中のチャレンジの背景にはあった。前回大会はブリングスが優勝し、グリフィスが2位。今回の田中とはレース順序が逆だが、自身の1500mの後に彼女たちは5000mでペースメーカーを務めていたのだ。
「去年そういうのを見て、スタミナ系を入れていくことが、これから世界で戦う上で必要な力になってくるんだと痛感しました」
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これが田中の真意だ。もっとも、これまでにも彼女のタフさには度々驚かされてきた。日本選手権では800m、1500m、5000mの3種目に出場し、今回よりも短いインターバルでレースに挑んだこともあった。それでもなお、「上」を目指すためにはスタミナを強化の必要性を感じているのだろう。それは自分の勝負の舞台が「世界」であることを意識しているからだろう。
米国では室内日本記録を連発
今年に入ってからの歩みを見ているだけでも、田中の視線がわかる。1月12日の全国都道府県対抗女子駅伝競走大会の後、1月末から2月中旬まではアメリカでインドアレースを転戦し、1000m、1マイル、3000m、5000mと異なる種目で室内日本記録を打ち立てた。
また、短距離界のレジェンド、マイケル・ジョンソンが主催するリーグ戦「グランドスラム・トラック」にも参戦。全4大会行われ、1大会で3000mと5000mの2レースを走るというハードスケジュールをこなしている最中だ。すでにキングストン(ジャマイカ)とマイアミ、フィラデルフィア(アメリカ)での3大会を終えている。
その他、3月には中国で開催された世界室内選手権に3000mで出場。4月は一度日本に帰って金栗記念の1500mを走ると、その後は再びアメリカへ。ボストンでロードの1マイル、ペンリレー(フィラデルフィア)で1500mに出場している。
移動距離だけでいったい何万キロになるのだろう。腰を落ち着けて国内でトレーニングを積んだのは、セイコーGGP直前の1週間の御嶽合宿ぐらいだ。
田中に刺激を与えるキピエゴンの存在
数々の日本記録を打ち立ててきた田中は、国内では頭抜けた存在だ。だが、現役日本人選手の中でも群を抜いて多くの海外レースを戦ってきたからこそ、世界の上位勢との距離は痛いほど実感してきた。


