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「キヨシ、今日は勝ったぞ!」“10・8決戦”を前にまさかの勝利宣言…数々の長嶋茂雄伝説を目撃した記者が明かす常識を超えた「長嶋野球のセオリー」
text by

鷲田康Yasushi Washida
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2025/06/04 17:02
1993年の開幕戦に勝利し、ウィニングボールとともに笑顔の長嶋茂雄監督
10・8決戦の試合前の発言にも、グラウンドに足を踏み入れた瞬間に、長嶋の目に入ってきた光景に根拠があったのだという。
「球場に入ったら中日の選手が練習しているのが目に飛び込んできたんです。それを見たら打撃練習をしている選手も、守備練習をしている選手も、どの選手も緊張で動きがぎこちなかった。いつもと全く違う固い動きだったんです。だから中畑には、これなら今日は絶対に勝てるぞと。そう言ったわけです」
のちに長嶋本人から聞いた“勝利宣言”の根拠だった。
数々の長嶋伝説を目撃
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1993年に長嶋が13年ぶりに巨人監督に復帰。そこから2年間、筆者は巨人系列スポーツ紙の巨人担当キャップとして長嶋を追いかける日々を送っていた。
長嶋番としていわゆる長嶋伝説もいくつも目撃した。
ナゴヤ球場のベンチ裏で三角形に切って並べてあったスイカの上の部分だけを次々と平らげていく姿を実際に見たことがある。大皿に盛られたフグの薄造りをグワッと一度に箸ですくう食べ方も、宮崎キャンプで目の前で見た。
「“初めての還暦”を迎えまして……」
96年の2月20日。キャンプ地・宮崎で60歳の誕生日を迎えた長嶋さんに赤いチャンチャンコとケーキを渡してお祝いをしたときに、こう挨拶をする姿に思わず担当記者同士で目を見合わせたのも覚えている。
ただこうした世に伝わる長嶋伝説とは別に、野球人・長嶋茂雄とその独特な野球観を何度となく目撃し、話も聞いてきた。
「私はブックベースボールはしない」
特に印象に残っているのは、監督・長嶋がことあるごとに語っていたこんな言葉だった。
「作戦を決めるのは90%はセオリーです。ただ残りの10%は相手を観察して、研究した結果、セオリーを超える用兵、作戦が必要になってくる」
「常識に頼っていたら活路は開けない」
長嶋野球で語り草となっている采配がある。


