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「欲望と天賦の才」19歳ドゥエ衝撃2G1AでPSGがCL初制覇…背景に“超金満クラブが牛耳る問題”「ボクシングなら同階級ではない」
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井川洋一Yoichi Igawa
photograph byTaisei Iwamoto
posted2025/06/01 11:19
インテルを5-0で粉砕したPSG。19歳ドゥエらの大活躍によってCL初制覇を成し遂げた
「この大会で優勝したことのないチームから、なるべく重圧を感じさせないようにしてきた。インテルは偉大なチームだが、我々のプレスはファンタスティックだった。うちの選手は誰もが今シーズン中に成長した。チームも同様に」
PSGがクラブ史上初のチャンピオンズリーグ優勝を達成した。フランス勢としては、1993年のマルセイユ以来、2チーム目だ。これがフットボール界全体に意味するものは大きい。なにより、若いチームはこれからも成長していくだろう。莫大な優勝賞金によって、さらに強くなることも予想できる。今後数年は、PSGがトップレベルのクラブシーンで追われる立場になるはずだ。
強すぎる金満クラブ「ボクシングで言えば同階級の試合では」
一方フランス国内では、もはやシーズンが始まる前から優勝チームが決まっているような状況に、拍車がかかることになる。先週末のフランス・カップ決勝でPSGに0-3で敗れたスタッド・ランスのサンバ・ディアワラ監督は、「ボクシングで言えば、同じ階級の試合ではない」と述べている。
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14年前にカタールの国家ファンドが買収したクラブは、そもそもほぼ無限の資金を備えており、この優勝で収入を増やしたことで使える支出も増加(ファイナンシャル・フェアプレーは、収入を支出が大幅に超えることを是正する施策だ)。欧州王者になったことで、名声も高まり、入団を希望するトッププレーヤーも増えることだろう。
超高度資本主義がいつまでも続きそうな世界では、巨額のカネがあれば、地球上でもっとも愛されているスポーツを牛耳ることが可能だと、近年の動向が示している。2008年にアブダビが買収したマンチェスター・シティは、2023年に欧州の頂点に立った。PSGは彼らより、買収から1年早く同じことを達成した。またカタールはW杯前大会を開催し、首長が優勝したアルゼンチン代表の主将リオネル・メッシに、アラブの伝統衣装ビシュトを着せた。同じく潤沢な化石燃料と巨万の富を持つサウジアラビアも、2034年のW杯開催権を獲得するなど、この競技で存在感を強めている。
もうフットボールにロマンを求めても、満たされることはほぼないだろう。世界と同じように、ごく一部の持てる者(クラブ)とそれ以外の差は広がる一方だ。
PSGのチームの優勝は見事だった。ただその背景を思うと、このスポーツの行く末を考えてしまったことも否めない。


