球体とリズムBACK NUMBER
「欲望と天賦の才」19歳ドゥエ衝撃2G1AでPSGがCL初制覇…背景に“超金満クラブが牛耳る問題”「ボクシングなら同階級ではない」
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井川洋一Yoichi Igawa
photograph byTaisei Iwamoto
posted2025/06/01 11:19
インテルを5-0で粉砕したPSG。19歳ドゥエらの大活躍によってCL初制覇を成し遂げた
ラウンド16で、リーグフェーズを首位通過し、プレミアリーグで首位を快走していたリバプール(その後にプレミアリーグを制覇)をPK戦の末に下した時、PSGが今大会の優勝候補に躍り出た。リーグフェーズを15位で突破し、プレーオフから調子を上げた彼らはその後、アストン・ビラ、アーセナルを下している──つまりイングランド勢を3タテしたわけだ。
ただし、無双状態のフランス・リーグアンで優勝を決めてから、CL決勝まで約ふた月が経った。その間にルイス・エンリケ監督が主力選手に1週間の休暇を与えたこともあり、試合勘やマッチフィットネスを危惧する声も聞こえていた。また現在のPSGの最大の武器のひとつであるハイプレスが、最後尾からコンビネーションで持ち上がることを得意とするインテルに、どこまで通用するかも焦点のひとつだった。
若きPSGが見せた完璧なチーム戦術と個人の判断
ところが蓋を開けてみると、開始から堂々たるパフォーマンスを見せたのは、若いPSGだった。始めはアンカー、途中からトップ下に移動したヴィチーニャを中心にショートパスでリズムを生み出し、相手を押し込んだ後は最前線からスピーディーなアタッカーたちがボールハントに全神経を研ぎ澄ませる。準決勝のバルセロナ戦では、面白いようにスルスルと後ろから敵を剥がしていたインテルの面々が、ロングフィードに頼りがちになる。だが前線のマルキュス・テュラムがマーカーを嫌がって、なかなか球を収められない。
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すると12分に、PSGが左サイドに人数をかけて、クバラツヘリア、ファビアン・ルイス、ヴィチーニャと繋ぐと、瞬間的にボックス左でフリーになったドゥエへパスが通る。そこから中央に強いパスを入れると、こちらもフリーのアシュラフ・ハキミが冷静に押し込んだ。先制点を決めたモロッコ代表キャプテンは、2021年夏にインテルからPSGに加入したため、セレブレーションはナシ。ただあの位置にサイドバックが最高のタイミングで入っていたのは、チーム戦術と個人の判断の賜物だろう。
ルイス・エンリケ「我々のプレスはファンタスティック」
PSGの初優勝への強い思いも、随所に垣間見えた。
20分のチーム2点目は、インテルが攻め込み、ボールがタッチラインを割りそうになったところを、ウィリアン・パチョが諦めずにニコロ・バレッラの肩越しにボールを残したシーンから始まっている。
そこから得意の鋭い逆襲に転じ、最後はデンベレのパスを受けたドゥエがボレーシュートを放ち、ボールはフェデリコ・ディマルコに当たってコースを変えてネットを揺らした。
「今日の勝利が、このグループの選手たち(のクオリティー)を物語っている。この結果は偶然ではない」
試合後に中盤の要ヴィチーニャは言った。また記者会見に出席したデンベレは、噂されるバロンドール獲得より、CL優勝の方が重要かと訊かれると、「もちろん。自分は個人賞よりもチームでの達成に重きを置いている」と淡々と応じた。
そしてスーパースター頼りのチームから、誰もがハードワークするチームに変貌させ、見事に3冠を果たしたルイス・エンリケ監督──10年前にバルセロナで同じことをした──は、次のように喜んだ。

