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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「受験では数学が得点源に…」陸上競技のU20日本王者がなぜ「東大に現役合格」できた? “究極の文武両道”吉澤登吾が描く“どっちも選ぶ”未来図
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生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2025/04/30 11:07

昨年のU20日本選手権800mで優勝し、日本一に輝いた吉澤登吾。桐朋高から東京大学に現役合格できた「文武両道」のリアルとは?
教養課程を学ぶ駒場には、キャンパスの奥にトラックがある。ここが吉澤の練習場所になる。
陸上は、これからトラックシーズン花盛り。5月8日からは相模原ギオンスタジアムで関東インカレが行われ、本格化していく。しかし、半年間の受験勉強を経て大学に入学したばかりの吉澤に、今から陸上の結果で多くを求めるのは酷というものだろう。
「正直、今は受験が終わったばかりで、まだ先のことは考えられていないです。たとえば、2年後にユニバーシアードがありますけど、現時点でそれを目指せるかというと、あまりにも現実感がない。今のところ、5月の関東インカレにはエントリーしていますが、練習してみないとどうなるかは分かりません。今年、大切にしたいのは日本選手権です」
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今年の日本選手権は、7月4日から6日までの3日間、国立競技場で行われる。
「日本選手権には、リスペクトがあります。だから、みっともない試合はしたくない。言い方は難しいですけど、1年後、2年後に理想とする走りを実現するために、日本選手権までの3カ月間に走れる体を作って、全力を出し切りたいです」
半年間、トレーニングを休んだことで、「根本的に体が変わっています」と吉澤は話す。
「トレーニングはしていませんでしたけど、ジョグを継続していたことで、走りの感覚は残っています。それと体重は変わっていないのも好材料ですかね。ただ、いまは流し(※8割程度のスピードで刺激を入れる走り)を入れると、息が上がりますけど(笑)」
文武の多彩さ…「僕にとっては『どっちも』です」
ここから「リモデリング」が始まる。
大学生にはいろいろな可能性がある。吉澤はインテリジェンス面で「多彩」な人であり、可能性を拡げられる人間だと思う。ただし、それは時に迷いを生む可能性もあって、将来、陸上と勉学の両立に悩む時が来るかもしれない。
ただ、吉澤にとって、「どちらかを選ぶ人生」はない。
「僕にとっては『どっちも』です」
この翳りのなさ、迷いのなさが、まぶしい。
今回、取材をして、「文武両道」という四字熟語は彼にとっては当たり前すぎて、殊更取り上げることではないと痛感した。
ただし、彼が東大でどんな競技生活をおくるのか、多大な興味が湧く。まぶしさに、惹かれるのだ。陸上という枠を超えて、吉澤登吾という人物には「磁力」がある。そんな彼の走りを見守り続けたい。

