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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「受験では数学が得点源に…」陸上競技のU20日本王者がなぜ「東大に現役合格」できた? “究極の文武両道”吉澤登吾が描く“どっちも選ぶ”未来図
text by

生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2025/04/30 11:07

昨年のU20日本選手権800mで優勝し、日本一に輝いた吉澤登吾。桐朋高から東京大学に現役合格できた「文武両道」のリアルとは?
実は、吉澤の自宅は東大の駒場キャンパスまでとても近いところにある。自由な時間をより多く確保するためにも、「通学時間が短いこと」も重要だった。
「国立の桐朋に通うより、だいぶ近くなりました(笑)」
受験期にできた競技に対する「思考の整理」
東大でやりたいことは、たくさんある。勉強。そして陸上。入学するにあたって、陸上に対してもいろいろと考えた。
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「陸上に対する『思考の整理』ができました。自分が考えていることがクリアになって、大学はそれを実践する場だと思っています。例えば『あるフォームをつくりたい』ということに対して、僕は4つのステップがあると考えています」
実現するためには、「絶対条件」がふたつあるという。
「まず、体の柔軟性を確保して、可動域を広げることが必要です。そうしないと、自分のやりたい動きができないからです。受験勉強中にジョグをしていたという話をしましたけど、柔軟性を維持したいなと思って、ストレッチも継続していました。
そしてふたつ目が最大筋力です。高校時代はウェイトトレーニングに取り組んだことはなく、すべて自重トレーニングで、それで十分だと思いました。これからは筋力が必要になってくると思っていて、たとえば2mのストライドを得ようとするなら、それに見合った筋力が必要になります。ただ数値を上げていけばいいというわけではなく、接地を固める足回りの筋力とか、実践的なものが大切になります」
ここからが理想の走りを実現するための「十分条件」だ。
「3つ目には、脳と体のコーディネーションです。脳で考えた動きを、実際に体で表現できるようにする。そして最後は持久的能力の向上。どうやったら実現できるのか、考えながら取り組んでいきたいと思っています」
理詰めで考えた上で実行、そして実証を行うのが吉澤のスタイルだ。
トレーニングをやめて150日後の「実証実験」の後、次に800mを走ったのは、東大に合格してから13日後の3月23日に、八王子・上柚木陸上競技場で行われた東京学芸大学記録会だった。
「受験が終わってから強度を上げて、レースに向けて準備をしたら、1分58秒77が出ました。これはですね、この時点の僕としては速いんですよ(笑)。U20で優勝した時と並んで、僕のなかのベストレースのひとつで。競技会で走るということで気合いが入ったのと、トラックで走れたこと、こうした条件を考慮に入れたとしても、いいレースができました」