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「人種差別行為は刑事罰に相当する」SVリーグで起きた“差別発言”…イタリア在住記者が抱いた違和感とは?「本心かわからないが、選手も観客も笑っていた」
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弓削高志Takashi Yuge
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2025/03/06 11:05
ネットを挟んで口論するマチェイ・ムザイ(左)とミゲル・ロペス。一線を越えた発言は熱戦に水を差した
アチェルビはEURO2020を制したイタリア代表のベテラン選手だが、気性の荒い偏屈者としても知られている。彼はまさに有明コロシアムでムザイがロペスに吐き捨てたとされる同じ類の言葉を使ってジェズスを罵倒した。
イタリアのサッカー競技規則第28条によれば、人種差別行為を犯したプロ選手には最低10試合の出場停止処分と最高2万ユーロ(約313万円)の罰金が科される。
人種差別行為は選手間で直接加害されるものだけでなく、近年はSNS上での誹謗中傷も増加の一途をたどる。また試合会場で観客による差別チャントや暴言を耳にすることは、残念なことだがカテゴリーや年代を問わず日常茶飯事に近い。
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差別行為を受けた選手が自身の尊厳や精神を守り、抗議のためにプレーの放棄を試みたり、主審へ試合中断を求める事件は毎年のように起こる。最も頻繁に攻撃対象になるのは、有色人種であるアフリカ系選手や90年代の内戦によって難民となった旧ユーゴスラビア出身者だ。
スタジアムやアレーナの閉じた空間で、本人に何の瑕疵もないのに憎悪と敵意を一身に浴び、眼前で人格を否定される。どれだけ大金を稼ごうとも被害者の恐怖と絶望、怒りは想像だにできない。人種差別行為があったばかりの現場で笑える人間など誰一人いない。
有明コロシアムで、ロペスが受けた蛮行はそういう本質を持つものだ。だから、問題のシーンの直後に撮影された動画をいくつか見て、違和感を覚えた。
“明るく楽しい雰囲気に戻そう”
レッドカードが出されたことを告げる会場アナウンスに、観客から笑顔で拍手が起きていた。
主審の判定を待つ間、コートの外にいるリザーブ選手たちが場を和ませようとしたのか、さまざまなパフォーマンスを行い、本心からかどうかはわからないが彼らもまた笑みを浮かべていた。
これがもし海外のアレーナやスタジアムであれば、同業者であるプレーヤーはもちろん、観客もその場に居合わせた当事者として敏感に事態の深刻さを察知するのが当然だ。笑えるわけがない。
試合後の選手コメントや翌日の試合前にチームミーティングが行われたという報道を見る限りバレー界としても事態を重く捉えているようだが、人種差別に対する倫理観より、一刻も早く明るく楽しい試合運営に戻そうというムードの方が優先されてはいなかったか。
昨年2月下旬、イタリアの男子バレー2部リーグ(セリエA2)の試合中、人種差別行為があった。
ラヴェンナ対グロッタッツォリーナという地方クラブ同士の対戦で、ナイジェリア出身のMBマルティンス・アラソムワンが対戦相手の応援団から猿の物真似と野次で侮辱されたのだ。
ここからが日本の反応とは異なる。


