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「人種差別行為は刑事罰に相当する」SVリーグで起きた“差別発言”…イタリア在住記者が抱いた違和感とは?「本心かわからないが、選手も観客も笑っていた」
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弓削高志Takashi Yuge
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2025/03/06 11:05
ネットを挟んで口論するマチェイ・ムザイ(左)とミゲル・ロペス。一線を越えた発言は熱戦に水を差した
アラソムワンの所属クラブ、ラヴェンナのベンチは即座に運営側へ事件を報告し、モラルある大半の観客が盛大なブーイングで愚行に怒りと抗議の姿勢を示した。人種差別行為はれっきとした刑事罰に相当するため、アレーナには警察が介入し、犯人の捜索が行われた。
事件翌日にはアラソムワンの所属クラブ、ラヴェンナの会長が興行元であるリーグ機構等に向け声明を通達、差別行為への断固たる反対姿勢を示している。
FIPAV(伊バレーボール連盟)は対戦相手クラブに罰金を科した後、サッカー界に倣う形で人種差別に対する予防対策の拡充に乗り出した。レフェリーに試合一時中断の権限を与える可能性を認めたのはその一つだ。
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イタリア・サッカー界は長年にわたって人種差別反対キャンペーン「Keep Racism Out」を通して啓発運動を続けている。先述した通り、スポーツ界における人種差別事件の多くがサッカーに集中しているのは事実だが、だからといって他の競技関係者が“対岸の火事”と見なすのは大きな誤りだろう。
AIC(伊サッカー選手協会)会長ウンベルト・カルカンニョは「差別問題はサッカー界のみに留まる問題ではない。スポーツは国全体の社会を映し出す鏡であることを忘れてはならない」と強く警鐘を鳴らす。
差別行為を受けてきたからこそ、沈黙できない
筆者のイタリア生活は25年目になる。
多種多様な人種・民族が暮らす欧州にあって、日本人は完全なマイノリティだ。自分自身、有形無形の差別行為を受けてきた自覚もある。家族を持ってから、自分は移民1世であるとより意識するようになった。
イタリアとの二重国籍の子供たちは学校でアフリカや東欧、アジア出身のクラスメイトたちと机を並べる。どんな田舎町にもアラブ系や中華系の異民族コミュニティがあるのが日常の風景だ。
現実問題として人種差別は存在し続ける。
それゆえに人種差別撲滅へ声を上げ続けていく必要がある。沈黙していたり、ただ笑ってやり過ごすだけでは、何も変わらないからだ。
移民が増加する日本で、SVリーグは「世界最高峰のリーグを目指す」という崇高な目標を掲げた。だからこそ、今回の騒動は日本バレー界の分岐点を象徴的に示しているのだ。

