野ボール横丁BACK NUMBER
藤浪晋太郎より評価されていた“中学No.1投手”の今…高校で悲劇、激痛が襲った「骨に直接注射を打った」天才が絶望した日…医者は「投げ過ぎだよ」
text by

中村計Kei Nakamura
photograph byHiroaki Yokotsuka
posted2025/02/21 11:02
大谷世代の中学日本代表でエースだった横塚博亮さん
中学時代から横塚は人一倍、指先の感覚を大事にしていた。爪を切るタイミングも試合日から逆算していたという。
「切ったばっかりって、爪が負けちゃうんです。そうすると、ボールを強く叩けない。すぐ血豆が出来ちゃうし」
「爪の長さ」までこだわる繊細さ
白い部分を全部切り、ほんの少しまた伸びた部分が白くなったくらいがベストだった。
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「自分のいい球が投げられる爪の長さがあるんですよ」
横塚がにわかに饒舌になる。
「もともと指先の感覚はいいと思ってます。コントロールとか手先の器用さって、絶対、文字に表れると思うんですよ」
――字、きれいなんですか?
「割ときれいな方だと思います。中学2年とか3年ぐらいから、めっちゃきれいになっていった気がします。字をきれいに書こうという姿勢と集中力って、絶対、野球につながっていると思うんです」
実際に紙に名前を書いてもらった。確かに端正な文字だった。ただ、その端正さよりも、字の小ささに目がいった。その大きさとバランスは学校の名簿等で使う氏名印を想起させた。
「小っちゃく書く方が、めっちゃ簡単じゃないですか。大きく書く方がバランスがとりづらいし、難しいなって思います」
発症した「ベネット症候群」とは
中学時代は、「普通にやれば」甲子園に行けると思っていた。だが、魔球を失ってしまった横塚は、その普通からどんどん遠ざかっていくことになる。
3年生を相手にすると、これまでのようにストレートとスライダーだけでは通用しなかった。桐蔭は極力ミスを減らし、1点にこだわる野球を信条としていた。そのためフォアボールを出すと、途端に味方ベンチの雰囲気が悪くなる。フォアボール=悪。知らぬ間にそんな価値観が刷り込まれてしまった。横塚の声のトーンが低くなる。


