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藤浪晋太郎より評価されていた“中学No.1投手”の今…高校で悲劇、激痛が襲った「骨に直接注射を打った」天才が絶望した日…医者は「投げ過ぎだよ」
posted2025/02/21 11:02

大谷世代の中学日本代表でエースだった横塚博亮さん
text by

中村計Kei Nakamura
photograph by
Hiroaki Yokotsuka
◆◆◆
「そこからおかしくなった気がしますね」
その程度のことで。そうも思ったが、横塚博亮の口ぶりは確信めいていた。
高校入寮の直前に…何が?
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「あいつは神様がいるから。指先に」
聖光学院出身の岡野祐一郎(元中日)のコントロールのよさを、右手の指先からボールをリリースする仕草をしながら、そう表現したのは同校野球部部長の横山博英だった。
少々大げさな気もしたが、おそらく直径73〜4mmのボールを繰り、人によっては何十億もの大金を稼ぐことができるのは、そうとしか呼びようのない特殊な能力が備わっているからでもあるのだろう。
横塚の指先にも神がいた。だが、ある日を境に神は忽然と姿を消し、もう二度と現れることはなかった。
桐蔭学園(神奈川)の野球部寮に入る3週間ほど前、横塚は世田谷西の練習に参加していた。その日は駒沢公園で主にトレーニング系の練習メニューをこなしていたという。
「手押し車をやってるとき、ある程度、スピードも出さないとって思った瞬間にやっちゃったんですよ。手首をひねってしまい、そのまま折れちゃって」
利き腕である右手の小指を骨折し、1カ月と少しギプスで固定せざるをえなかった。
小指で感覚変わる? 本人の答え
ギプスを外したあとも小指の骨の形が変わるなどの後遺症はみられなかった。しかし、ボールを投げると、感覚が微妙に変化していた。もっとも影響が大きかったのは横塚の最大の武器になっていたチェンジアップだった。
「中学のときに投げていたチェンジアップじゃなくなってしまいましたね。ギプスをしている期間が長かったので、ボールを持たな過ぎたんですかね……。小指って普段はあんまり意識しないんですけど、めちゃめちゃ大事なんです。握力を測るときも小指を抜いたときがいちばん低いと思います。親指なんて、いくら骨折しても大丈夫だと思いますよ。ただ、支えているだけなんで」
横塚はそう言って、大きく分厚い手を開いたり、閉じたりした。