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「あの子の“察知能力”はすごいものがある」楽天・星野仙一はなぜ田中将大に託したのか? 巨人を倒して悲願の日本一「マー君が無双してたあの頃」
posted2024/12/26 17:01
text by
永谷脩Osamu Nagatani
photograph by
Hideki Sugiyama
田中将大がキャリアハイとなる「24勝0敗1セーブ」という驚異的な数字を残した2013年。翌年にはメジャー挑戦の意思を固めていた田中は、なんとしても楽天を日本一に導くために満を持して日本シリーズに臨んだ。その相手は奇しくも36歳の田中が新天地に選んだ巨人だった――。Sports Graphic Numberが過去に掲載した田中将大の名場面を振り返ります。初出:Number841号(2013年11月14日売)『田中将大 絶対エース、渾身の302球』【全2回の1回目/後編に続く】※表記はすべて初出のまま
2013年日本シリーズ第7戦9回表。楽天球団創設9年目にして初めて迎えた日本一を決めるマウンドには、やはりこの男、前日160球で完投した、田中将大が立っていた。
だが、連投のせいでストレートに伸びがない。村田修一とロペスに打たれ、2死ながら一、三塁、本塁打がでれば同点のピンチを招く。バッターは代打・矢野謙次。巨人の誇る一発屋である。田中はスプリットを3球続け、1-2と追い込んだ。試合途中から降り出した冷たい雨が、田中の肩に降りそそいでいる。マギーがさりげなく、マウンドの田中に向かって、何か囁いた。
マギーが生み出した僅かな“間”
田中が楽天に入団した2007年以来、7年間にわたりコンビを組んできた捕手・嶋基宏は、この試合の最後の一球が、田中の日本での最後の一球になるだろうと思っていた。
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「最後の球はストレートでいきたいのかなと思いました。でも、すぐに考え直して、スプリットにした。力勝負で三振を取りにいくより、落として打ち取った方がいいと思ったんです」
嶋が選択したのは、4球連続となるスプリット。マギーが取った僅かな“間”が、変化球連投のサインを出し易くしていた。黙ってうなずいた田中は、ストライクゾーンからボールになる142キロのスプリットを投げる。矢野のバットが空を切る。この瞬間、楽天の日本一が決定した。