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「阿部慎之助を一番警戒していた」25歳の田中将大が“楽天の日本一”のために巨人に投じた渾身の302球「アイツ、最後までいくと言ってます」

posted2024/12/26 17:02

 
「阿部慎之助を一番警戒していた」25歳の田中将大が“楽天の日本一”のために巨人に投じた渾身の302球「アイツ、最後までいくと言ってます」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

25日、巨人入団会見に出席した田中将大(36歳)。背番号は「11」に決まった

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永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

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 2013年、田中将大が初めて日本シリーズのマウンドに初めて上がったのは初戦ではなく第2戦だった。レギュラーシーズンで「24勝0敗」という驚異的な数字を残した当時25歳の大エースはなんとしても楽天を日本一に導くために、満を持して日本シリーズに臨む。その相手は奇しくも36歳の田中が新天地に選んだ巨人だった――。Sports Graphic Numberが過去に掲載した田中将大の名場面を振り返ります。初出:Number841号(2013年11月14日売)『田中将大 絶対エース、渾身の302球』【全2回の2回目/前編から読む】※表記はすべて初出のまま

 則本昂大の好投が報われず、1敗を喫して迎えた第2戦。田中将大は、立ち上がりから気合の入った投球を繰り広げる。シーズン中の田中は立ち上がりが決してよくはなかった。佐藤コーチは「排気量の大きい車はエンジンのかかりが遅いのと一緒」と言うが、受ける嶋もそのことは十二分にわかっている。だから、立ち上がりは、より注意深くリードしようと心に決めていた。だが、注意深くといっても、慎重なリードをしようというのではない。逆に大胆な攻めを心がけたのだ。

 嶋はこう振り返る。

「前日に負けているし、相手を勢いづけさせたくなかった。とにかく、腕を目一杯振れる球種を、思い切って投げてもらおうと思ってました」

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 首脳陣からも、「立ち上がりは、とにかく腕の振れる球種を使ってくれ」と厳命されていた。佐藤コーチが言う。

「日本シリーズの初登板は、どんな投手でも緊張するもの。思い切り振ることで、緊張感も解けてくる。逆にストレート系の腕を振れるボールではなく、スライダーのような、“切る”球種を選ぶと、腕が縮こまってしまう。相手のデータを考えるよりも、投手に気持ちよく投げさせてくれ、と言ってありました」

 初回、巨人の1番打者は長野久義。長野は初球、田中が投じた149キロのストレートに手を出し、あっけなく一塁フライに倒れる。捕手・嶋基宏が「あれは助かりました」という、1球でとった1つのアウトで、田中将大は早くも波に乗る。寺内崇幸はストレートで追い込み、スプリットを落として三振を奪う。3番・阿部慎之助は四球で歩かせたものの、続く村田修一を三塁ゴロに仕留めた。

バッテリーが最も警戒した阿部慎之助

 嶋が巨人の打者で最も警戒していたのが、阿部である。リードの課題は、いかに阿部を封じるか。初戦からそのことで頭がいっぱいだったほどだという。「何しろ、『巨人は阿部のチーム』と、原監督が言ってたくらいですから」と嶋は言うが、首脳陣からも阿部に対しては、「高低を使って攻めろ。不利なカウントになっても、四球は出して良いから、カウントを稼ぎにいくな」という指示が出ていた。嶋は田中と「阿部さん、村田さんは塁に出しても走られる心配がない。次の打者に集中していこう」と話し合っていた。

 いつもより早くエンジンがかかった田中は危なげない投球を続ける。巨人先発の菅野智之も、楽天打線を寄せつけない。田中はかつて「同じ右の本格派の投手には負けたくないという思いが強い。絶対、先に点はやらないという気持ちで投げている」と語ったことがあるが、この日も同じ思いだったに違いない。

 田中が大きなピンチを背負ったのは6回だった。四球、ヒット、四球で、2死満塁。打席には強打者ロペス。簡単にツーストライクと追い込んだ7球目、ファウルを挟んで、2-2になったところで、嶋はこの打席で初めて内角に構えた。「ボール球を挟んでの内角勝負」は、二人の暗黙の了解事項だった。152キロのストレートが内角を抉る。空売り三振。ガッツポーズとともに雄叫びが上がる。今シーズン、再三再四ピンチに際に出た“走者を背負ったときのアドレナリン”が全開したのだ。

【次ページ】 寺内への初球「明らかな油断だった」

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