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「僕はプロになれなかったから…同じことをさせたらアウト」なぜ“岩手の奥地の大学”から一挙6人のプロ野球選手が? 39歳監督の「超合理的」思考法
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byNumberWeb
posted2024/12/17 11:03
39歳の若さで富士大を率いる安田慎太郎監督。一挙に6人ものプロ野球選手を輩出したウラには、監督独自の「超合理的思考」があった
自分が届かなかったプロの世界に、ひとりでも多くの学生を送り出す。
執念といってもいい安田の思いが表れたエピソードがある。2023年の明治神宮大会、のちに広島から2位指名を受ける左腕・佐藤柳之介が、準決勝の青山学院大戦を前に「中2日での登板」を志願したときの話だ。
佐藤は初戦で上武大をわずか3安打に抑えて完封していた。チームの勝利のために「投げたい」と直訴する佐藤に、安田は言った。
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「あらためて確認するけど、なんのためにウチに入ってきたんだ。上位指名でプロに入るためだよな。それを忘れてないか? いま、怪我したら終わりだよ。一番大事な目標を一時の感情で見失うな。いくら言っても、俺は使う気はないよ」
一方で…「単に“投げなければいい”とは思っていない」
安田は佐藤のブルペン入りさえも許可しなかった。結果的に、富士大は青山学院大に3対4の僅差で敗れている。この件について質問すると、安田は苦笑しながら「これは難しくて、その選手の立ち位置とか状況にもよるんですよ」と内幕を明かした。
「仮に佐藤が4年生で、ドラフト前最後のスカウトが来るリーグ戦だったら、と想定しましょうか。絶対に支配下でプロに行きたいと思っているけど、ドラフトにかかるかどうかギリギリのラインにいて、本人が投げたいと言ったら、連投させます。本人の目標のためですからね。単に『投げなければいい』とはまったく思っていない。
ただ現実的には、佐藤は3年生の段階で翌年のドラフト候補になっていた。それならリスクを犯す必要はない、というだけの話なんです。順調にいけば支配下で指名されると思うし、それよりも怪我をするリスクの方が高いよ、と」
解消していない疑問もある。チームを率いる監督として、明治神宮大会という大舞台で「勝つ可能性」を最大化しようと考えた場合、たとえ酷使であっても抑える可能性の高い投手を起用したくはならないのか、という点だ。大学の名前を売るという意味でも、あるいは個人的な野心や功名心という意味でも、リスクと見返りを天秤にかけて勝利を追い求める指導者は少なくないのではないか。
だが、安田はあっけらかんと「選手に無理をさせてでも勝ちたい気持ちですか? まったくないですね」と答えた。
「僕は選手をプロに行かせたいし、プロで活躍してほしい。選手たちに自分のような無念を味わってほしくない。言ってしまえばそれだけなんです。それに、全日本や神宮で優勝できればプロに行けなくてもいい、と本気で思っている選手なんていませんよ。全日本で負けてプロに行くのと、全日本で勝ってプロに行けないという選択肢があったときに、後者を選ぶわけがない。そんな選手がいたら、嘘でしょ、綺麗事はやめようぜって言いますよ」