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「大活躍のちケガ」を繰り返し…今季で現役引退の巨人・梶谷隆幸(36歳) 同期入団の親友が見た“ケガと向き合い続けた”野球人生とは?
text by
高森勇旗Yuki Takamori
photograph bySankei Shimbun
posted2024/11/03 11:01
今季限りでの現役引退を発表した巨人の梶谷隆幸。2006年横浜入団時の同期でいまも親交が深い筆者が見た、長年の壮絶なケガとの戦いとは
「腰の回復は結構順調で、むしろ膝がだんだんおかしくなっている感じで。日々の治療もほぼ膝のことばっかり。そんな中で、本当に軽く、50%も出力しないランニング中に、急にガクン、と。本当に、左膝が、落ちたと思った。立ち止まって左膝を触って確認して、あれ、落ちてない、みたいな。でも、そこから歩くことができなかった」
腰のリハビリによる長期の空白期間は、体中の小さい筋肉、あらゆるセンサーをわずかに緩ませた。長い年月を積み重ねてつくりあげた強固な体を取り戻すには、また長い時間をかけたトレーニングが必要だった。微妙に緩み、崩れたバランスのまま動かした体にかかる負荷は左膝の半月板に集中し、割れた。再びの手術。この1年も、復帰することは叶わなくなった。
「そりゃ、いろんな思いがあった。FAで移籍してきて、ほぼリハビリ。なんとかしたいけど、なんともならない。毎日、ジャイアンツ球場に行って、治療して、上半身のトレーニングをして、帰るだけの毎日。正直、野球を見たくなかったし、実際ほとんど見なかった。自分のチームの順位も知らなかった」
自暴自棄との狭間で
この時期の梶谷に、何度か会っている。
折に触れて野球の話になった際は、「オマエ、ほんま野球好きやな。野球の話はもうええやろ」と、とにかく遠ざけようとした。気持ちが切れてはいけない、ヤケにさせてもいけない。そんな気を遣ってみるものの、全てが空振りに終わる。
自分の力でどうにかできることなら、悩んだり、もがいたりできようというもの。しかし、ただ回復を待つだけの日々に、どうやってモチベーションを保てるというのか。悶々とした日々の中で、心無いファンからの誹謗中傷は増えていく。「カジ、プロ野球選手ってのは、大変な仕事だな」と思わず呟いた。
「そういうもんだろ、この世界は。ひどい言葉も届くけど、確かにその通りだもんな。俺、仕事してないし。でも、それだけ期待されているってことだし、忘れ去られてはないってことよ。それに、活躍すればそれが一気に大歓声に変わる。誹謗中傷されるのが嫌なんだったら、辞めりゃいいんだよ、プロ野球選手」
梶谷の心に、まだ消えていない炎が見えた。
<次回へつづく>