甲子園の風BACK NUMBER
「監督、これ1位あるよ」記者はささやいた…ソフトバンクドラフト1位・村上泰斗はなぜ甲子園出場なしで“高校最強右腕”今朝丸裕喜の阪神2位を上回ったか
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph byJIJI PRESS
posted2024/11/02 17:01
ソフトバンクの1位指名を受け、小久保監督と王会長のサインボールを掲げる村上
一時期ショートアームに挑戦した上で元のテークバックに戻すなど、試行錯誤する中で様々な感覚に触れたことが奏功し、課題だった制球力が大幅に改善。追い続けたスカウトが「球速が大幅に上がる高校生はいる。けど、ここまでコントロールがよくなる高校生はめずらしい」と目を丸くするほどの成長を見せた。岡本が言う。
「秋から冬、冬から春、春から夏。それぞれの成長曲線がものすごかったなと感じます。村上を見ていて、『高校生って、とてつもない力があるんやな』って思わされました。僕からしたら、まさか、まさかが続いて、これだけの選手になった感じなので」
今朝丸は阪神2位指名。結果的に、春時点では「えらい差がついた」ライバルを上回る順位でプロに飛び込むことになる。ただ、村上に慢心はない。岡本が目を細める。
「ドラフトの後の取材で、『順位で今朝丸に勝ちましたね』って聞かれとったんです。それに対して、村上が『順位だけは上かもしれないですけど、直接対決の練習試合では負けてるんで、プロで投げ合って勝ちたいです』みたいに言うとって。『お前、偉いなー!』って(笑)。そういう感覚があるというか、浮ついてない。考え方もしっかりしてきましたね」
奇しくも、今朝丸は藤川新監督の下、本格派右腕への道を歩む。“火の玉ストレート”の後継者争いの行方も見逃せない。
“ドライチ”の教え子への思い
指導者人生で初めて“ドライチ”を出し、その影響力、注目度の大きさを実感する日々だ。ドラフト翌日の指名挨拶には「30~40人ぐらい」の報道陣が駆け付け、九州在住の大学時代の先輩からは、村上が一面を飾った新聞が送られてきた。1年に、わずか12人しか手にすることのできない金看板を背負って巣立つ教え子の成功を願う。