- #1
- #2
野球クロスロードBACK NUMBER
松井秀喜「4球団競合ドラフト」で“指名漏れ”した同級生エースのその後…彼の野球人生は悲劇だったのか?「後悔はいっぱいあったけど…」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2024/10/27 17:23
4球団競合の末に巨人入団した同級生の松井秀喜の一方で、エースの山口哲治は指名漏れの憂き目に。その後の波乱万丈な野球人生とは?
「後悔っていっぱいあったと思うんですけど…」
悲劇。波乱万丈。山口の野球人生に見出しを付けるのなら、きっとそうなるだろう。
だからこそ、聞いておきたかった。
もし、高校でプロ志望を表明せず予定通り大学に進んでいたら――と考えたことはあるか?
山口が即答する。
「いっぱい思いましたよ。ドラフトのあとももちろんそうですし、神戸製鋼に入ってからもしょっちゅう思ってました。でもそれって、思うようにいかないことがあると誰だって考えることですもんね。仮に大学に行っていたらドラフト上位で指名される選手になっていたかもしれないけど、プロに行って活躍できるかどうかはわからないわけですし。
後悔っていっぱいあったと思うんですけど、歳をとればとるほど『これでよかったんかな』って思います。神戸製鋼に行ったから今の家族と出会えましたし、高卒で今のポジションって他の会社ならなかなかないんじゃないですかね。やっぱり、出会いって大事ですよね」
人生に正解などない。だから道を間違える。大事なのは、そこで立ち止まって塞ぎ込むのではなく、誤ったとされる道でも、再びしっかり歩み出せるよう舗装することなのである。
山口は、それができた。だからこそ、今の自分を誇れるのだろう。
神戸製鋼で室長の山口には、播磨ボーイズの監督というもうひとつの肩書がある。勤務後や休日にはユニフォームを着て中学生を相手に汗を流すのだと、充実感をにじませる。
「地道に練習することが一番だよ」
甲子園で5打席連続敬遠された怪物を間近で見てきた男が、監督として選手に懇々と説く。そんな自分が導き、彼らが成長できたとわかったときの感動ほど嬉しいことはないのだと、山口は声を弾ませる。
「松井というすごい選手を見てきたこともそうだし、自分なりに『パワーでは敵わないけど、打率なら松井に勝てる』とか、負けず嫌い根性を出しながら頑張ってきたこととか。そういう経験を伝えていきたいですし、選手が思い通りにならないとき何を教えられるかとか、そんな使命感を持ってやっています」
野球で躓く。あるいは人生の岐路で選択を間違えてしまう。そういった状況にあるすべての後輩に山口は、こんな言葉を贈る。
「この世の終わりじゃないよ」