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野球クロスロードBACK NUMBER
松井秀喜“4球団競合ドラフト”のウラ側で…指名漏れした「星稜高のエース」は何者だった? 「『恥ずかしい』が一番」「監督にも挨拶せずに…」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2024/10/27 17:22
4球団競合の抽選の末、巨人が交渉権を獲得し野球部の仲間たちに胴上げされる18歳の松井秀喜。歓喜のウラで同級生エースに起こった悲劇とは
そんな山口をプロもマークしており、次第に学校や親から勧められるようになっていた。彼らから話を聞くと、松井の指名に意欲的だった中日が興味を示してくれており、他にも獲得を検討する球団があったのだという。
「当時はドラフトの結果を待ってくれるような大学はなくて天秤にかけることができませんでしたから、気持ちは揺れましたよ。でも、最終的には『自分がプロに行くことで親とか身内が喜んでくれるなら』と」
山口は大学進学から一転、プロ行きを表明する。ドラフト会議の10日前の決断だった。
運命のドラフト会議…そこで別れた「明暗」
「運命の1日」
そう呼ばれるドラフト当日の11月21日こそ、山口にとってもうひとつの痛恨を刻む日となってしまった。
その日、高校通算60ホームランの「目玉選手」である松井が、自宅を出るところから報道陣に密着されていたのに対し、山口はいつもと同じように電車で通学した。
土曜日の授業が終わった昼過ぎ。阪神、中日、ダイエーとの競合の末に「巨人が1位で松井の交渉権を獲得した」と一報が届くと、一気に校内が慌ただしくなる。クラスは違うが、表情をこわばらせながら教室から会見場へと向かう松井の姿を山口は捉えていた。
記者会見が終わると、約150名の報道陣がグラウンドで松井の記念撮影をするため一斉に動き出す。“主役”が後輩たちに胴上げされ、担ぎ上げられる。しかし、その場にいた3年生は松井ひとりだった。
「多分、他の3年生も自分に気を遣ってくれていたんじゃないですかね。松井も『山口が指名されるまで待ちたい』って言ってくれていたみたいだったんで」
その頃、山口は教室にいた。
野球部の松本や北村宣能をはじめとする親しいクラスメートが、自分と歓喜の瞬間を分かち合おうと下校時間が過ぎても待ってくれていた。
しかし、なかなか「山口哲治」が呼ばれない。2位……3位……4位……会議が淡々と進行していく。時計の針は5時を指そうとしていたと思う。11月の夕刻の空は、黄昏に浸る間も与えず夜の帳を降ろす。山口の心もすっかり暗くなっていた。