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「新記録より送りバント」を選んだワケは? “ドラフト注目”大商大・渡部聖弥が語る泥臭さの原点…右打ち、外野手、「せいや」なら指名の球団は…
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/10/22 06:01
ドラフトで注目の大商大・渡部聖弥(177cm88kg・右投右打)。明大の宗山塁とは高校時代のチームメイトだ
この場面、ヒットを打っていればリーグ戦通算120安打となって、自身のリーグ新記録をマークすることもできた。
「学生野球最後の打席になるかもしれんのに、打てば記録を更新できたかもしれんのに、そういう場面で送りバントですよ。選手としてもそうですけど、人間としてすばらしいじゃないですか」
4年間、手塩にかけた「人情味」の富山監督、声を震わせて、鬼の目にも涙(失礼!)である。
カープの赤いユニフォームほど…
その数日前、広島・岡田明丈投手の戦力外通告が伝わった。
大阪商業大4年生時に続けた快投を高く評価されて、2015年ドラフト1位で広島に入団。2年目に12勝5敗、3年目は8勝7敗と奮投したが、その後、肩、ヒジの故障に見舞われて、最近の5年間は、一軍登板がなかった。
そういう出来事のあった年は、新たな選手をそのチームからドラフト指名しないのがプロ球界の「通例」……以前、何度かそうしたことを耳にしたことがある。だが、私にはカープの赤いユニフォームほど、渡部聖弥を「欠点のない選手」に仕上げてくれる環境はないように思う。
地元・広島出身(府中市)ということは置いておくとしても、学生球界有数の厳しい日常の中で、4年間ほぼフル出場して、通算打率は4割越えの9本塁打。首位打者2回、ベストナイン5回、MVP1回。その強靭な心身と、泥くさく体当たりの全力プレー。カープの一員として、マツダスタジアムであばれまわる彼の姿なら、すぐに想像できる。
なにより、右打ちの外野手のスラッガーで、その名が「せいや」。ほかの11球団のどこよりも、彼の存在感がピタッとハマるのがカープではないのか。
なかなかそうはすんなりいかせてくれないのも、実は「ドラフト」という登竜門の意地悪さなのだが。なぜか最近は、そうなってくれないか……と祈るような思いにかられる毎日である。