決勝は集団の中で必死に食い下がり、ラスト200mで突き放されたが、2分3秒31で6位入賞を果たした。格上の外国人ランナーを相手に奮闘したが、久保は反省する。

「自分の“思い通りにいかない”というのを一番感じました。前半からのみ込まれて、ラストも自分の走りをできずに終わってしまいました。世界のレベルが高くて、自分に足りないものに気づかされました」

　今後、世界で活躍するためには貴重な経験になった。野口監督も言う。

「集団に埋もれてしまって、外ばかりじゃなく、久保の内側から来るランナーは日本にはいません。今後、久保が自分のレースパターンに持っていくためには、もうちょっといろいろと考えないといけないですね」

　久保の目線はすでに世界を向いている。夏のパリ五輪でもっとも心が震えたシーンは、やり投げの北口榛花（JAL）の金メダルだという。

「この大舞台で優勝するのがスゴイです。世界陸上でも優勝されていてプレッシャーもあると思うんですけど、自分の投擲をして優勝するのは、すごくカッコいいなって思いました。全然違う種目ですけど、同じ陸上競技にすごい方がいる。自分も負けてられないなっていう気持ちになりました」

目標は「日の丸を背負って活躍する選手に」

　日本陸上女子初のトラック＆フィールド種目での金メダルという偉業に刺激を受け、自らの目標も明確になった。

「日の丸を背負って世界で活躍する選手になりたいです。最初に自分が800mで、世界で活躍したいという思いが一番強いです。4年後、8年後にオリンピックがあります。一番の目標はオリンピックで入賞してメダルを獲ること。その目標に向かって、これから頑張っていきたいと思っています」

　日本女子が五輪の800mを走ったのは、久保に抜かれるまでの日本記録保持者だった杉森美保（現姓・佐藤）が出場した04年アテネ大会が最後だ。だが、日本女子初の五輪メダルもこの種目。1928年アムステルダム大会で人見絹枝が銀メダルを摑んだ。

「名前は、聞いたことあります」

　日本スポーツ界の偉人に触れ、久保は名前そのままに凛とした表情で頷いた。4年後の2028年は、それから100年のロサンゼルス大会が待っている。16歳は日本陸上界の将来を視界にとらえている。