Number1105号の巻頭企画「FACE」に登場した久保凛。誌面に掲載できなかった本人インタビューの内容や、東大阪大敬愛高の野口雅嗣監督のコメントをもとに、とてももない能力を持ったランナーの強さの秘密と16歳の素顔に迫ったNumberPREMIERオリジナル記事です。
日本陸上界の800m女王の素顔を見た。
久保凛に会ったのは夏の暑さがしつこく大阪平野にへばりついたままの9月上旬だった。東大阪大敬愛高の応接室で、目覚ましい成長を遂げたこの1年を振り返ってもらった。日常生活のことを訊けば、こう明かす。
「家で犬を飼ってるんです。飼いたいってずっとお願いしてて。小学6年生の時に飼ってもらったんです。遊んでいる時がすごく息抜きになっていると思います」
なんともほほえましい。名前はフウタ。5歳オスのシーズー犬と戯れるオフタイムが日々の疲れを癒してくれる。制服を着ている時は、屈託のない笑みを浮かべる、どこにでもいる女子高校生だ。
「中学校の時の動画を見ればわかるのですが…」
1時間前はまったく別の顔をしていた。わたしが取材のため校門をくぐると、目の前を久保が駆けていった。桜の木を起点に校舎や校庭を巡るアスファルトを回り、土のグラウンドを走る1周600mのコース。腰高のフォームで、体を抱え込むような腕の振りで力強く進む。
不意に現れたわたしは日常を乱す闖入者。だが、彼女は見向きもせずにただ前だけを見据えて走り去った。桜の木に戻って来るまで2分25秒。淡々と1㎞4分ペースを測ったように刻んだ。普段から行うジョグだから体内に染み込ませてきたタイム感覚があるのだろう。
走る姿を直接見るのは初めてだった。女子800mの日本記録保持者とはいえ、16歳の高校2年生である。もっと線が細いのかと思っていたが、軸はブレず、体の上下動も少なく地面にはりついたように走る。同校で指導する野口雅嗣監督が明かした。
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photograph by Ai Hirano