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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
監督も「そこまで実力ないと思っていましたから…」高校時代は超無名→大学で159キロ右腕に…“ドラフト1位候補”愛知工大・中村優斗は何がスゴい?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/10/21 06:02
大学最速159キロを誇るドラ1候補の愛知工大・中村優斗。高校時代は甲子園経験もない無名選手だったが、そのスゴさはどこにあるのか
中村君、わかっているんだ。ならば、修正できる。
「でも、今日はそういうボールが少なかった」
体の開きをギリギリまで我慢した良い投げ方というのは、疲れる投げ方であり、体の強さがないと出来ない投げ方だ。言い換えれば、体調万全でないとなかなか出来ないフォームともいえる。
「リーグ戦までに、いかに体を休ませるかですね。良い意味で」
客観的に自分を見つめる感覚を持っている。言葉だけの威勢の良さより、こうしたフラットでクールな感性のほうが「投手」として頼もしくはないか。
スカウトが「プロでも決め球になる」変化球とは?
「実は中村みたいなピッチャーがいちばん決断しにくいんです」
1年時から愛知工業大・中村優斗を追いかけてきたあるスカウトが困っていた。
「高校時代の彼がまったく見えない。当時のことを知っている人(スカウト)もいないし、私自身も知らない。だけど、大学の3年半でとんでもないピッチャーになっている。まっすぐの強さだったら、高校・社会人含めてNo.1じゃないですか。突然、天から降臨してきたようなピッチャーってことですよ。彼、スピードのことばかり話題になりますが、変化球もいいんですよ。特にフォーク。プロでも決め球になります」
そう、変化球だ。本人に訊いていた。
「いちばん頼りにしている変化球ですか? フォークですね」
即答だった。
「1つ前のまっすぐと同じピッチトンネル(軌道)から落とせば、高い確率で空振りが奪える。試合によっては、まっすぐより頼りになるヤツです」
そのフォークが140キロ前後のスピードが出て、カットボールもその球速帯に近く、スライダーが130キロ近辺。これに、今日は抜けがちだったカーブが110キロ台だから、その球道がタテに安定してくれば……。
長崎では何も起こらなかったのに、名古屋に転じてからの中村優斗投手の「野球」には、劇的な変化が起こった。彼の努力もひとかたならぬものだったのだろうが、名古屋という土地に野球の「運気」があったことも、事実なのではないか。ならば、「中日ドラゴンズ」という将来が運命のような気もする。
右の先発タイプが少ない中で、今季は頼みの柳裕也まで調子が上がらないままに終わった。左腕・小笠原慎之介のメジャー移籍もささやかれている。育ち、育ててもらった名古屋という土地に、今度はその剛腕で「恩返し」する時がやってきたのかもしれない。