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「先生、井上尚弥と対戦してるんですか!」アマ日本最強ボクサーが高校教師に…いったいなぜ? 柏崎刀翔が生徒に伝える第一声「どうも拳闘馬鹿です」
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byNumber Web
posted2024/10/11 11:45
福井県立羽水高校で教師を務める元アマチュア全日本王者の柏崎刀翔(33歳)。担任としてクラスを受け持ち、多忙な日々を送っている
「先生、井上尚弥と対戦してるんですか!」
生徒にはアマチュア時代の経歴や井上と闘ったことは言わずに、こう告げる。
「ウィキペディアとかYouTubeで探せば、名前が出てくるから。関心あれば調べてみて」
しばらくすると、生徒が驚きと喜びが入り混じったような表情で問いかけてくる。
「先生、井上尚弥と対戦してるんですか!」
目の前にいる教師は、あの「怪物」と3度も闘った男なのだ。
複雑な家庭環境、涙が流れてきた敗戦、日本一になった喜び、試合への恐怖心……。さまざまな経験をしてきたからこそ、いろんな立場の学生の気持ちがわかるのではないか。酸いも甘いも噛み分けた柏崎だからこそ、寄り添うことができるのではないだろうか。
「僕自身がなれなかった、インターハイチャンピオンを育てたいな。これまではせいぜい全国で勝って1回。来年2勝できるといい。(福井の)県民性なのか、いい子が多い。荒さがないんです。穏やかで、なんでここで行かないんだ、ってときもあるんですけど」
取材が終わり、ボクシングの練習場を見せてもらうことになった。体育館へと向かう。入り口付近で私服姿の女子が笑みを浮かべていた。
「先生、久しぶり!」
「元気か? 頑張ってるか」
「頑張ってる。ちゃんとやってるよ」
どうやら、大学へと巣立った卒業生が遊びに来ているようだった。卒業生はちらりと来客の私たちを見て、柏崎に視線を戻した。
「先生も頑張ってね、じゃあね、またね」
「おう、またな」
私たちは練習場へと歩き出した。しばらくして振り返ると、卒業生は柏崎の背中に向かってまだ手を振っていた。
<#1、#2、#3とあわせてお読みください>
柏崎刀翔(かしわさき・とうしょう)
1991年1月7日、石川県生まれ。大聖寺実業高校、日本大学を経て、自衛隊体育学校に入隊。その後、福井南特別支援学校教員を経て、現在は福井県立羽水高校教員。ボクシング全日本選手権優勝3回、準優勝4回。2013年、2019年のアジア選手権で銅メダル獲得 ※名字の「崎」の正しい表記は「たつさき」