ボクシングPRESSBACK NUMBER
「先生、井上尚弥と対戦してるんですか!」アマ日本最強ボクサーが高校教師に…いったいなぜ? 柏崎刀翔が生徒に伝える第一声「どうも拳闘馬鹿です」
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byNumber Web
posted2024/10/11 11:45
福井県立羽水高校で教師を務める元アマチュア全日本王者の柏崎刀翔(33歳)。担任としてクラスを受け持ち、多忙な日々を送っている
井上尚弥への思い「予想を絶対に上回るじゃないですか」
これまで何百ものボクサーを間近で見てきた。高校生で完成されている選手は頭打ちとなり、その後伸び悩む。大学生くらいから頭角を現してきた選手は伸びしろがあり、成長を遂げていく。いわゆる早熟と晩成だ。だけど、高校時代、すでに非の打ち所のないように見えた井上がプロになっても恐ろしいスピードで強くなっている。まだ伸びるのか。ずっと右肩上がりなんて、あり得るのだろうか。
「普通、チャンピオンになったりすると、目標を達成した満足感とか、山を一つ登りましたとなるわけで、次へ向かうハードルが高くなると思うんです。でも、尚弥は誰よりもハングリーというか、モチベーションのつくり方に終わりがないというか。そういうのが本当に勉強になりますね」
期待を背負って闘う。大舞台で力を出し切る。柏崎にはなかなかできなかった。だからこそ思う。
「尚弥がああいう舞台で闘っているのは本当にすごい。勝って当たり前、倒して当たり前に見られる。だけど、その予想を絶対に上回るじゃないですか」
感嘆なのか、ため息なのか。フーッと息を吐き、こちらに笑みを向けた。
「馬鹿になれることを見つけよう」高校教師としての日々
進学校の福井・羽水高校で、昨年からクラスを受け持ち、現在、高校2年の担任とボクシング部の顧問を務めている。初めての授業で自己紹介をするときには必ず日大のモットーである「拳闘馬鹿」と刻まれたシャツを着ていく。第一声は決まっている。
「どうも拳闘馬鹿です」
生徒たちがどっと笑う。「何、この先生」と奇妙な視線を送ってくる。
「みんな、高校生活で馬鹿になれることを見つけよう」
それが柏崎の伝えたいメッセージだ。
「お金を稼げればいい、楽しければいい、いい大学に行ければいい、みたいな考え方もあるし、今は何でもできるが故に、生きづらい側面もあると思うんです。僕はあまり勉強をやってこなかったけど、人生をかけて夢中になれるものを見つけられた。そんな僕にしか教えられないことがあると思っています」