炎の一筆入魂BACK NUMBER
「悔いなく終われた」先発一筋13年でついに引退を迎えたカープ野村祐輔の信念と、後輩たちが語った凄み《デビュー以来211試合連続先発登板》
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2024/10/08 11:04
10月5日の試合後の引退セレモニーで、野村はファンに最後の挨拶をしながらグラウンドを回った
20年まではシーズンを通して先発ローテーションをほぼ守ってきたが、21年以降は二軍で一軍登板を待つ日々が長くなった。もちろん二軍での登板はあったが、野村にとっての準備は一軍マウンドに向けたもの。いつ訪れるか分からないその日に向けて、集中力が切れることはなかった。
22年に入団した森翔平は、二軍で野村と多くの時間を過ごしてきた投手の1人だ。
「祐輔さんは普段から仲良くて、話もいっぱいさせてもらう。一番すごいのは準備のところ。誰よりも早くアップして、本当に“準備の人”だなと思った。再現性が高く、キャッチボールにすごく意識を置かれている。ちょっとでもズレたら『今のは違う?』とか。そこで感覚を確かめるというのは当たり前のことなんですけど、おろそかになりがちな部分。僕らは改めて気づかされました」
野村が今年初めて一軍に昇格したのは、8月2日。春季キャンプ中に右ふくらはぎを痛め、新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れた20年の7月22日よりも遅い。キャリアを通して最も遅いシーズン初登板だった。
13年目の登板で見せた真骨頂
待ちに待った同日の中日戦で、自身の真骨頂とも言える投球を見せた。
5回まで全79球中、最速は139キロだった。それでも「生命線は真っすぐ」とこだわった。直球と同じ軌道から左右に曲げるツーシームとカットボール、スライダー。さらにチェンジアップはブレーキの効き、100キロ台のカーブとともに軸となる球種を引き立てた。
1回2死一、三塁を切り抜けても毎回のようにピンチを招いたが、3回2死一、三塁では4番細川成也をセンターフライに打ち取った。4回は1死満塁としながら投手の小笠原慎之介を空振り三振、村松開人を二直に切った。さまざまな球種を織り交ぜながら、最後の勝負球はいずれも直球系だった。
今季2度目の登板となった8月13日のDeNA戦に5回4失点で負け投手になると、再び二軍で登板を待つ日々となった。チームが苦しい戦いを続ける9月も一軍に呼ばれなかった。
「後輩たちと一緒に頑張りながらやってきたのですが、そろそろかなと思い、決断しました」
9月24日、球団に現役引退の意志を伝えた。
「フォームが安定しなくなったところがある。維持するのがすごく難しくなってきて、いろんなことを試しながらやってきたんですが、なかなかうまくいかなかった。自分が想像しているようなフォームにならなかった。体を動かせられなかったというところですかね」