インターハイでは1位から8位まで順に8点、7点、6点……と得点が加算され、その合計得点で男女の優勝校が決まる。個人の活躍が注目されがちだが、学校対抗戦でもあるのだ。実際、石塚は高2の時、個人種目で20点を獲得し、敬愛の女子総合優勝に大きく貢献している。自分がチームの「得点源」になる――このモチベーションは、インターハイという特別な舞台ならではだろう。

　石塚は近畿大会で大会初となる5冠を達成。計11レースを走り、400mで自身初の53秒台をマークするなど、800m以外の4種目で大会記録を樹立した。

　迎えた和歌山インターハイの初日、400mを大会新・高校歴代4位の53秒30で制して個人種目初タイトルを獲得。3日目の400mHをジュニア日本新・高校新の57秒09で制して2冠を達成する。いずれも大会新での優勝。柿内氏の“予言”は見事に的中したどころか、それを遥かに上回る鮮烈な快進撃だった。そして最終日、4×400mリレーのアンカーを務めて2年連続Vを勝ち取り、3冠を果たす。

400mHで全国制覇した日は中距離種目だけで実に1日4レースをこなした　©AFLO

「一番きつかったのは3日目。400mHの準決勝から始まり、800mの予選、400mHの決勝、その25分後に800mの準決勝があるんです。しかも2年連続で1組目に入ってしまった。高2の時は不安すぎて、決勝の前に泣いちゃいました。でも、高3の夏は400mHの後に短めのレストで800mを走るような対策もしていたので、組編成が出たときもあまり動じることはありませんでしたね」

　結果、800mは2位、4×100mリレーは準決勝敗退で5冠には届かなかったが、石塚は個人種目だけで23点を稼いで、敬愛の2年連続女子総合優勝に貢献。女子の大会MVPに選出された。その類のない活躍ぶりは、陸上専門誌で「伝説の5日間」とも評されるほどだった。

全国MVPに選出も…その後に起こった“異変”

　あの夏、石塚を突き動かしたものとは、一体何だったのだろうか。

「私は良くも悪くもインターハイのことしか考えていなくて『この舞台で優勝するためにここにいる』という気持ちがブレることはなかった。それが一番大きかったのかなと思うんです。あとは先輩や後輩、同期に力のある選手が揃っていた時代でもあって、最後まで孤独感もなく仲間たちと戦い抜けた。日本で一番頑張ったんじゃないかと思えるような体験ができたのは本当によかったなと思いますね」

©Shigeki Yamamoto

　インターハイ優勝という絶対的な目標と、同じ志を持った仲間の存在。誰より熱く、強烈な夏を過ごした18歳は大学進学後、その両輪を失い陸上人生の歯車を狂わせていくことになる。

＜次回へつづく＞