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育成入団→電撃トレード→「イップスのような状態」も乗り越え…ロッテの196cm右腕・国吉佑樹が苦難の先に掴んだもの〈球団新記録のヒーロー秘話〉
text by
梶原紀章(千葉ロッテ広報)Noriaki Kajiwara
photograph byChiba Lotte Marines
posted2024/09/12 11:08
ロッテの球団新記録となる22試合連続無失点を達成した国吉佑樹投手
クールな男の熱いガッツポーズ
その後、インフルエンザに感染する不運もあり登録抹消となったが、京セラドーム大阪で行われたバファローズとのクライマックスシリーズファイナルステージ第3戦の大舞台で登板。5回から投げて2イニングを無失点に抑えてシーズンオフを迎えた。
「最後の最後で一軍に上がって結果を出すことが出来て、自分にとって自信になった。来年はやれるという手ごたえを掴むことが出来た」と国吉は振り返る。
迎えた24年シーズン。悩み抜いた男は華麗に復活した。9月5日のイーグルス戦(ZOZOマリンスタジアム)。2点リードの7回にマウンドに上がり1回を無失点に抑えた。3アウト目を浅いサードフライに打ち取るとグラブを右手で荒々しく叩いて喜びを表現した。クールな大男にしては珍しいガッツポーズだった。それもそのはず。これで球団新記録となる22試合連続無失点を達成したのだ。
「意識したくなくても…」
「19試合無失点くらいの時、球場から帰りのタクシーを待っている時に記者に言われて初めて球団記録を知った。その後、20試合連続無失点で勝ち投手になってヒーローインタビューで言われて、意識したくはなかったので、そこはあえて『全く知りませんでした』と答えました。それからはもうヒーローインタビューでも話題になっているので周りの人もみんな知っています。意識はしたくなくてもしてしまう。色々と考えてしまったけど、抑えてホッとした。あのガッツポーズは安堵から出た感情。自然と出ました」
すべてを一から直す。悲壮な決意を持って、日々の身体の動かし方も含めて見つめ直したあの日。まさか、その後こんな偉業を達成できる日が来るなんて想像出来なかった。陰極まり陽に転じた。行くべきところまで行ったからこそ、開き直れて人生が少しずつ開けていった。2年間苦しんだからこそ得られた大きな喜び、悩みに打ち勝った男へ、それは神様からのご褒美だった。
「本当に幸せだと思った」
「記録を達成して本当に色々な人から連絡がきた。同級生、先輩、後輩。ベイスターズの人。昔からの友達。こうやって連絡をもらって改めて色々な人がボクのピッチングを見てくれていることを実感した。自分のピッチングに凄いリアクションがある。応援してくれる人がいる。本当に幸せだと思った」。翌日、球場に姿を現した国吉は嬉しそうにしみじみと口にした。
マウンドに立ち続ける日々は変わらない。ブルペンでは10球から15球で肩が出来る。そこからマウンドに向かう。ストレートを中心にフォーク、カットボール、カーブ。ゾーン内に強いボールを投げ込む。打者と、次々勝負する。チームの勝利のため、そして応援してくれる人のために0を並べる。新しい自分を見つけた196cmの長身右腕はこれからも、マリーンズの伝説を作り続ける。