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育成入団→電撃トレード→「イップスのような状態」も乗り越え…ロッテの196cm右腕・国吉佑樹が苦難の先に掴んだもの〈球団新記録のヒーロー秘話〉 

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梶原紀章(千葉ロッテ広報)

梶原紀章(千葉ロッテ広報)Noriaki Kajiwara

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photograph byChiba Lotte Marines

posted2024/09/12 11:08

育成入団→電撃トレード→「イップスのような状態」も乗り越え…ロッテの196cm右腕・国吉佑樹が苦難の先に掴んだもの〈球団新記録のヒーロー秘話〉<Number Web> photograph by Chiba Lotte Marines

ロッテの球団新記録となる22試合連続無失点を達成した国吉佑樹投手

「勝ちパターン」を意気に感じて

 しかしZOZOマリンスタジアムに初めて足を運んだ時には球団からこう明言された。「勝ちパターンで使う。その気持ちで準備をして欲しい」。目の前の数字ではなく、高い角度から繰り出される威力十分のストレートを評価されての移籍だった。そこまで満足いく成績を出すことが出来ていたとは言えない中で、いきなり勝ちパターンを任されるほどの期待をかけてもらえたことを意気に感じた。

「トレードに関してネガティブな気持ちは元々なかった。寂しかったけど、選手としてはいい機会だと。7回の勝ちパターンでと言ってくれたことで役割が自分の中で明確になった。これまでは先発が崩れた時とか、どこで投げるか試合展開次第で分からなかった。勝ちパターンで投げる機会もなかなかなかった。それだけにありがたかった」

 もう一つ、プラスに思えた材料もあった。「元々、変化球でかわすタイプではなくストレートで押していくタイプだったこともパ・リーグに向いていたかも」。自己分析通り、トレード後は25試合に登板して2セーブ17ホールドで防御率1.44。最後の最後までバファローズと優勝争いを繰り広げ、最終的には2位となったチームの快進撃をブルペンで支えた。

「イップスのような状態」

 ただ、その後は苦しんだ。一昨年は登板6試合。昨年はわずか3試合の登板に終わった。ある時をキッカケに突然、投げ方を忘れたかのようになった。ボールが指にかからず、コントロールがきかない。二軍でもストレートがホームベース手前で大きくワンバウンドするなどボールが乱れる痛々しいシーンも見られた。

「思うように投げられなくなった。最初、投げるのにちょっと違和感があって、それがどんどん大きくなった。谷底に転げ落ちるような感覚。コントロールがきかなくなった。いわゆるイップスのような状態。

 投げられたのに投げられない。もどかしい。怪我をしていない。身体は元気。だけど指にかかる感じがほとんどない。今まではあった感覚がない。思うように投げることができないから投げるのが気持ち悪い。昔、軽いのはあったけど……ハマってしまった。小さいことを気にしてそれを直そうとしたら他のところまで崩れて、投げ方全て崩れてしまった」

苦境から脱した「大改造」

 どん底から立ち直る契機になったのは、わずか6試合の登板に終わった22年のオフだった。思い切って開き直った。すべてを忘れ、フォームを一から作り直した。ピッチングの動作ではなく、もっと前。身体の動かし方から着手した。

「立っている時の姿勢。バランス。そこから見直した。歩き方。一歩目。走る時もまず立って歩いてそこから走る。だから立つことから考えた。一回すべて分解して、一から組み立てた。オフから。毎日、身体の動かし方をチェックしてメカニックを整えて。それくらい抜本的なことをしないといけないと思った。一つを直すのではなく、ピッチングでもなく、もう身体の動かし方、全部だった」

 最初にピッチングへの違和感を感じてからは1年半ぐらい経過していただろうか。昨年、夏前くらいにある程度投げられる手ごたえを掴むことができた。9月18日に一軍昇格すると3試合、3回3分の2を投げて無失点。気がつけば自慢のストレートは威力を取り戻しゾーン内に押し込むことができるようになっていた。

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