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「日本は個の力がとても弱かった」トルシエが嘆くパリ五輪金スペインとの“決定的な差”「コレクティブは同じだ。ただ残念だが決定機を…」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Nakachi/JMPA
posted2024/08/26 17:02
パリ五輪スペイン戦後、号泣する小久保玲央ブライアン。結果的に金メダルを獲得した相手に敗れたチームを、トルシエがあらためて評価する
「もちろん前提として、優れたチームには高い個の力を備えた選手が揃っている。偉大なチームはどこも個の力が突出した選手たちの集まりだ。スペインにしてもフランスにしても、ヨーロッパで名の知られたビッグクラブに選手たちは属している。
しかしそこから先は、コレクティブな問題だ。コレクティブといったとき、それは組織や規律などだ。スペインの場合は、コレクティブな力が60%、個の力が40%の割合だったのに対して、フランスはコレクティブな力が40%、個の力が60%だった。だから試合自体は拮抗していたが、最終的にスペインの規律あるコレクティブな力が、延長戦に入ってからの4点目、5点目を生み出した。スペインはプレーでこの五輪を勝ち取った。両者の違いはコンセプトの違いだった。コレクティブな組織をベースにしたチームと、個人の表現をベースにしたチームの違いだ」
――フランス戦に限らずスペインは、グループステージのときから余裕を持ってボールを回していました。それも80%程度の力で。
「それがスペインのコンセプトであり、プレーの哲学でもあるからだ。忘れてならないのはスペインは欧州チャンピオンであり、そのうえ五輪でもチャンピオンになったことだ。カタールW杯での日本戦の敗戦から立ち直って、再び世界のトップに返り咲いた。レアル・マドリーは欧州クラブチャンピオンであるし、女子代表も23年女子W杯で優勝するなど世界のトップだ」
日本の守備は強かった。ただ攻撃で言うと…
――スタイル的な話で言うと、FCバルセロナとスペイン女子代表もそうです。
「つまりスペインは世界最高峰であり、彼らのスタイルであるパスサッカーやコンセプトである規律と組織、さらには個の力も備わった中で、組織と個のバランスをうまくとっている。先ほどは60%対40%と言ったが、70%対30%でもいいかも知れない。重要であるのはプレーのコンセプトだが、それは単にパスを回すだけではない。
コンセプトとは相手をコントロールすることでもある。とりわけ相手の守備を。スペインは相手守備ブロックの中でパスを繋ぐ。もちろん外で繋いでクロスを上げることもあるが、基本はブロックの中で繋ぐことで、フランス戦の同点ゴールもそうだった。相手ブロック内でのパス回しと個の力。スペインはすべてを備えていた」
――そうであるから、改めて日本の守備力の強さを感じました。準々決勝で日本は、スペインの最大の長所である流れるようなパス回しを、完全に分断しましたから。