左中間、右中間も1人で守れる広大な守備範囲。本人、思い出したくないだろうが、早稲田実業戦、正面のヒットを後方に逸らし、驚いて一目散に追いかけた時のスピードの凄かったこと。

　そうだ、思い出した。

　こんな、よもやのアクシデントの直後も、変わらぬフラットな雰囲気で、後続3選手を緩急で打ち取った投手・馬庭優太の肝っ玉の大きさ。

　ギアの上がりが、早稲田実業の打者を、完全に圧していた。

甲子園では随所で気持ちの強さも見せた馬庭　©Hideki Sugiyama

　だから9回、大社打線が必死に1点を奪って、タイブレークに持ち込めたのだろう。投手の「実戦力」のホントのところ……それはもしかしたら、うなるような150キロではなく、絶体絶命の窮状に持てる力を存分に発揮できること。その一点に尽きるのではないか。

ベスト8の“事実”が証明した「実戦力」

　あまり聞かない島根の公立校。その正体は、公立校だが体育科があり、野球部専用グラウンドと小ぶりながら室内練習場もあって、選手たちは県内東半分の地域の中学校から参集し、鍛え抜かれた精鋭たちであった。

　出たくたって、なっかなか出られない夏の甲子園で、やろうと思ったって絶対にできないような試合を2つも、3つも。何度も驚かされた「快挙」を、出雲大社のご加護と結びつけるような報道もあるが、甲子園という聖地は、「神頼み」でなんとかなるような場所じゃないだろう。

「事実」が、繰り返し証明してくれた「あまり聞かない島根の公立校」の確かな実戦力を忘れない。

©Hideki Sugiyama

　そんな折に届いたのは快足のリードオフマン・藤原佑中堅手、プロ志望届提出予定の報。阪神・近本光司選手の社高校（兵庫）当時と、果たしてどうなんだろう。そんな空想をかき立てられるような野球センスと身体能力の塊だ。

　そして、ピッチングセンスならぜんぜん負けていないエース・馬庭優太投手だ。肝心な人を忘れていた。山陰が生んだ偉大な「実戦力左腕」和田毅投手（島根・浜田高卒）。こんなうってつけのお手本がいてくれることが、このサウスポーの何よりの「伸びしろ」になるに違いない。