田中が英語で伝えた思い「3年間、東京五輪から…」

　2人は東京五輪の準決勝で同組の4位（ハル）、5位（田中）としのぎを削り、揃って決勝に進出した間柄だった。だがパリでは、ハルは決勝に進出し、田中は準決勝で姿を消した。ハルが通り過ぎた後、報道陣の前に姿を現した田中は靴をいったん脱ぎ、話しながら涙した。そして、ハルとのやりとりについてはこう明かした。

「ハルからは『どうだった？』って聞かれたんですけど、私は『無理だった』というふうに答えました。でも『3年間、東京オリンピックから、今日は久しぶりに4分を切ることができて、3年ぶりに4分を切ることができて、東京の時以来なんだ』と単語を並べただけだったんですけど、伝えることができました」

田中希実に笑顔で声をかけるハル　©Ryosuke Menju/JMPA

　自分のタイムの価値を英語で伝えた田中。東京五輪の決勝では田中が8位、ハルは11位と先着した。しかし、3年間の歩みは対照的だ。

「ハルは東京五輪の時、彼女の中で初めて4分を切って。そこからトントン拍子で彼女は来ていて（パリ五輪前の自己ベストは3分50秒83）。ただ、彼女の持ちタイムからしたら、（私の）4分を切るというのは、まだまだかもしれないんですけど、それでも笑顔で『よかったね』と言ってくれました」

　レースも、ハルの存在を念頭に置いたプランを描いていた。

「今日は、本当はハルの背中にピッタリついて走りたいという思いがすごくあって。去年の3月11日にオーストラリアの大会で3000mのオセアニア記録を作りたいということでペースメーカーをさせてもらった時に、『今度は私が力になりたい』と（ハルが）言ってくださっていたので、今日は勝手に、彼女の力を借りようって自分の中で決めていました」

「勝手に」と語ったところで笑みを浮かべる田中。ただ、目標にした黄色のユニフォームは遠かった。眼の前に現れた決勝進出の壁、その先にハルの背中があった。

「やっぱり1周目への余裕度っていうところの地力の差が生まれてしまって。でもそこで余裕を持って彼女の背中につくことができるようになったら、また新しい世界が見えるんじゃないかなっていうのは思いました」

【次ページ】　パリでの3分台は、苦しみの中たどり着いた記録