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「始まる前から、終わっていたのかも…」田中希実がいま明かすパリ五輪後“衝撃の本音”「私はすでに満たされてしまっていたのかもしれない」
posted2024/09/03 17:00
text by
泉秀一Hidekazu Izumi
photograph by
Ryosuke Menju / JMPA
発売中のNumber1103号に掲載[独占インタビュー]田中希実「始まる前から、終わっていたのかも」より内容を一部抜粋してお届けします。
パリ五輪のレースから4日後、ノートルダム大聖堂前にて
激闘から4日、取材場所に現れた田中希実は、清々しい空気を漂わせていた。出場した1500m、5000mの2種目で決勝進出を目標にしていた田中にとって、パリ五輪の結果は満足のいくものではなかった。1500mは準決勝、5000mは予選で敗れ、決勝進出は叶わなかった。それでも、田中は納得しているように見えた。
取材場所は、ノートルダム大聖堂前のパティスリーショップ。店のガラスケースには芸術品のように美しいスイーツが並んでいた。「どれにしようかな」「これも美味しそうだな」。田中はガラスケースの中を楽しそうに見つめながら、マンゴーとココナッツのペイストリーを選んだ。大会中の張り詰めた表情が消え、本場パリのスイーツを前に嬉しそうな表情を浮かべていた。
周囲の期待も、自分に求める水準も高まっていた
東京大会からの3年間で、田中への注目度は急上昇した。2021年の東京五輪の1500mで日本人初の8位入賞を果たし、'23年の世界選手権では5000mで日本選手として26年振りの8位入賞、日本新記録をマーク(後に更新)。周囲の期待も、自分に求める水準も高まっていた。無意識のうちに膨らんだ重圧は、パリ五輪で弾けた。1500mの予選後、絶望的な表情でテレビのインタビューに答えた。
「いろんな人の生きた証を私の走りで証明したかったんですけど、ラストに気持ちが切れたような走りになってしまっていたんじゃないかというのが、すごく申し訳ないです」
だからこそ、大会後に街を楽しむ様子を見て安堵した。パリ五輪は田中にとって、いかなる大会だったのか。閉会式翌日の8月12日、熱気が残るパリ市内で2度目の五輪を振り返った。
「始まる前から、終わっていたのかも」
――大会中は涙する場面もありましたが、今はスッキリしているように見えます。2度目の五輪を、どのように振り返っていますか。
「苦しみと同時に幸せも感じる。そんな大会でした。戸惑い、悔しさ、苦しさに襲われた。一週間が一カ月に感じられるほどハードな大会でした。一方で、結果が振るわなかったからこそ、色んな人の温かい言葉が嬉しかった。一日一日を噛みしめながら過ごしていました。しんどいけど、もっと続いて欲しかった。でも、いま振り返るとこうも思うんです。五輪を迎える前から、私はすでに満たされてしまっていたのかもしれないなって」
――ハングリーさが失われていた?