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「アカサキ!」英語実況もビックリ「彼は今、先頭を走っています」“超過酷なパリで激走”マラソン・赤崎暁が世界を驚かせた日「あの日本人は誰なんだ」
posted2024/08/18 11:02
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph by
Ryosuke Menju/JMPA
学校のマラソン大会。先頭に飛び出てレースを面白くさせるヤツ。あなたの学校にもいなかっただろうか? 何を起こすんだ、コイツは。そんな懐疑と期待の視線を一身に受ける。パリ五輪の男子マラソンで同じように注目を集めた日本人がいる。男子マラソンで6位に入賞した赤崎暁だ。
海外記者の戸惑い「あの日本人は誰なんだ」
生まれは熊本。中学までバレーボール部だった。『web Sportiva』の記事によれば、地元のマラソン大会で陸上部より速かったのがきっかけで長距離に取り組むようになったという。高校から本格的に陸上をはじめた。スタートは早くはなかった。
高校、大学と何度も陸上をやめようと考えた。パン工場での勤務を考えたことも。ケガが多かった開新高校時代、木村龍聖監督からは「これでケガしなかったらもっと伸び続けるよ」と背中を押された。拓殖大学では箱根駅伝に4年連続で出場した。
「いろんな人に正しい道を導いてもらいました」
今は九電工に所属する九州男児はパリで朗らかに笑った。
パリ五輪マラソンの代表選考レース「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」で小山直城に次ぐ2番手でゴールし、東京五輪6位の実力者・大迫傑を5秒上回ったが、2時間9分台を切ることができなかった。
「9分台ランナーがマラソン代表で大丈夫なのか。僕だってそう思います」
本人も懐疑的な意見に理解を示すほど、日本勢の中で一番の「ダークホース」だった。
迎えたパリでのレース、スタートは速くはなかった。と言っても、それは見かけだけ。記録上は5km通過が64位、10km通過が52位だったが、上位集団に位置し、好機をうかがっていた。これからもっと伸び続ける。気配を宿す背中が集団の隙間からチラリと映る。
15km地点を9番手で通過。20km手前の数百mにも及ぶ急勾配の登り坂を駆け上がる。20km、給水地点。赤にオレンジ色を少し混ぜたような日本代表のユニフォームがまた見えた。ただ、名前が映らない。まだ赤崎の名が呼ばれない。ゴールで選手を出迎える記者エリアに「あの日本人は誰なんだ」という雰囲気が漂う。日本人記者が集まるエリアはアフリカ勢と張り合う姿にざわつく。
スタートから1時間が過ぎようとした時、公式映像はエリウド・キプチョゲの異変を伝える。左腰に手を当て、「このサインは明らかにキプチョゲの異変を示しているぞ!」と英語の実況は言葉を継ぎ足す。前回、東京五輪金メダリストがまさかの失速。このレース、誰が勝つのか。本命は後方に消えた。