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「一番恐れていたことが五輪で起きた」柔道・阿部詩“5年ぶり敗戦”にパリ激震…憔悴の取材ゾーンで一体何が?「普段はあんなに明るい阿部詩が…」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2024/07/29 17:45
兄妹での連覇を期待されていた阿部詩(24歳)。まさかの敗退に、柔道大国フランスでも衝撃が走った
そもそも前回大会の金メダリストが2回戦という早い段階で、世界ランク1位の強豪と対戦したのはなぜなのか。それは阿部がシード外だったからだ。
世界ランキングのポイントは国際大会に出場し、勝ち進めば得られる。パリ五輪のシード権は、予選期間の世界ランク8位まで、と国際柔道連盟で定義されていた。
昨年6月、阿部が早期に五輪代表に内定したときは世界ランク3位だったが、その後、ポイントを伸ばせなかったため、世界ランクは9位となり上位シードには入れなかった。抽選の結果、勝ち進めば2回戦でケルディヨロワと対戦する山に入ることとなった。
阿部は1回戦でカナダの出口ケリーに大外刈りで一本勝ちし、運命の一戦を迎えた。
「もちろん、シードはあった方がいいと思います。ただ、52kg級は強豪選手が集う階級で、どこに入ったとしても厳しい。これまで彼女は様々な逆境を覆して結果を残してきた選手。今回もやってくれるだろうと思っていた」(増地監督)
実は阿部にとってはこれが2019年11月のグランドスラム大阪大会以来、5年ぶりの敗戦だった。しかも国際大会で外国人相手に一本負けを喫するのはこれが人生初というのだからショックも大きい。よりによって、それが一番恐れていた五輪本番で起こってしまった。
痛感する連覇の難しさ「自分が弱い」
21歳で出場した3年前の東京五輪は、自身初のオリンピックで怖いもの知らずの強みを存分に発揮し、表彰台のテッペンに立った。
そして2度目の今回。東京五輪が終わった瞬間から追われる立場となり、連覇のプレッシャーを感じながらも、むしろ自らそれを切望して、来るべきこの“一日”のためにすべてをかけてきた。兄・一二三とともに連覇を果たすことを夢見て――それが必ず実現できると信じて。
「本当に悔しいの一言です。オリンピックという舞台で勝てなかった自分が弱い」
金メダルが決まると、うれし涙で顔をくしゃくしゃにし、両手を突き上げて、何度も畳をたたいて喜びを爆発させた東京五輪。一転、涙にくれたパリ五輪。
今後のことは「落ち着いてから考えたい」と明らかにはしなかったが、世界最高の舞台で喜びと悔しさの両方を味わった女王は、きっと試練を乗り越えて、一回りも二回りも大きく、強くなって帰ってくるに違いない。
男子66kg級で金メダルを獲得し五輪連覇を果たした兄は、4年後の大舞台で再び兄妹で頂点に立ちたいと新たな目標を口にしていた。
ただ、妹がどれだけパリに懸けてきたか、その道を一緒に歩んできただけに、十分すぎるほどその想いが理解できるゆえ、結論は急がない。
今は焦らず、ゆっくりと。自分のペースで一歩ずつ前に進んで欲しい。