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「一番恐れていたことが五輪で起きた」柔道・阿部詩“5年ぶり敗戦”にパリ激震…憔悴の取材ゾーンで一体何が?「普段はあんなに明るい阿部詩が…」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2024/07/29 17:45
兄妹での連覇を期待されていた阿部詩(24歳)。まさかの敗退に、柔道大国フランスでも衝撃が走った
平野幸秀コーチに抱えられなんとか畳を降りたものの、涙も嗚咽もいっこうにおさまらない。歩くことも、立ち上がることさえもままならない。普段は明るくポジティブで愛らしい笑顔の彼女からはまったくが想像がつかないほど、憔悴しきっていた。
阿部曰く「負けた瞬間は冷静に自分を保つことができなかった」。
阿部の姿は観客にとっても衝撃だった。退場する際には会場から、異例ともいえる「ウタ」コールが自然と湧き上がった。柔道大国フランスの観客は、前回大会王者への敬意を決して忘れなかった。
現地メディアも「タイトルホルダーの阿部詩がラウンド16で敗退」と速報で伝えた。
通常であれば自国選手の活躍を伝えるのがテレビの五輪中継だ。だが、フランス人選手の活躍とともに、この日は日本のスーパースターがまさかの敗戦を喫したと、何度も繰り返し伝えられていた。柔道の盛んなフランスであることも関係しているだろうが、それほど世界が驚いた世紀の敗戦だったといえる。
目を真っ赤に腫らし、絞り出した言葉
女子日本代表を率いる、増地克之監督も「心が痛む」と慮った。
試合後の取材対応は難しく、ようやく落ち着きを取り戻した阿部が取材ゾーンにあらわれたのは、敗戦から数時間後のことだった。
元気な姿を見せたが、ただ、泣きはらした目の周りは明らかに真っ赤だった。取材中にも、時折、溢れる涙をこらえて気丈に声をふり絞って言葉を発するが、終始どこか心ここにあらずという印象だった。