日本サッカーの拠点であるJFA夢フィールドでの練習を終えた原口は、サウナへと向かった。そこで視界に入ったのが、一人でたたずんでいた伊藤だった。伊藤がA代表に初めて招集されたタイミングだったから、原口は気を使って声をかけた。

「一緒にサウナへ行く？」

　伊藤はこう返した。

「あ、俺は大丈夫です」

　近年のサウナブームのなかでは、若者が連れ立ってサウナに行くことを「ドラクエ」と揶揄する声もある。とはいえ、伊藤は「ドラクエ」を嫌ったわけではないし、原口の心づかいには今も感謝している。ただ、初めての代表活動だったとはいえ、決して緊張していたわけではないから、そう答えたに過ぎない。

アイツは間違いなく、大物になるよ

　原口はその返答に少しだけ驚いたが、日本サッカーの明るい未来を見た気がして、嬉しさも覚えたという。「コイツは自分を持っている選手だな」と。誘われてついていく後輩は確かに、かわいい。ただ、先輩に誘われても断れるような若者は、自分を持っているということだから、後に大成する可能性が高い。だから、原口は予言めいたことを口にしたのだ。

「あの断り方も気持ち良かったしね。アイツは間違いなく、大物になるよ」

23－24シーズン終了後、原口と　©Getty Images

　J1でわずか3試合しか出場経験がないままドイツへ渡り、3年間の活躍が認められ――伊藤は名門バイエルンに招かれることになった。今回のインタビューで“移籍の裏話”を語るなど素顔を見せてくれた25歳は、当時から大器の予感を漂わせる選手だったのだ。

＜第1回、第2回からつづく＞