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「眉毛? 隠せないですから」“優等生じゃない大器”バイエルン伊藤洋輝「あ、俺は大丈夫です」サウナを断られた原口元気が大化けを予言した日
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byS. Mellar/FC Bayern,Getty Images
posted2024/07/17 11:07
バイエルン合流直後の会見で決意に満ちた表情の伊藤洋輝。意外と知らない日本代表DFの素顔とは?
それは、伊藤に割り当てられたロッカールームの席の位置と関係している。伊藤の席は扉のすぐ横にあった。移籍や退団で空いた席に新加入の選手が入るのがシュツットガルトの慣習であり、たまたま、その席が割り当てられた。
「僕の席は隅っこで、扉の横にありました。そのせいで、練習を終えて汗をかいた選手が僕の席に勝手に座って、靴紐をほどくようなことがしょっちゅうあったんですよ! あれは、結構、嫌でした。そういうときには、海外を感じましたね(笑)」
ただ、そこでアルコール除菌シートを買ってきて、汗や汚れを拭くようなナイーブさなど伊藤は持ち合わせていない。清潔に保つ掃除は「担当のおばちゃん」に任せた。日本では考えられないことがあったとしても、その違いにナーバスになっていたら、活躍なんてできない。そう考えていた。
あるとき、伊藤は練習後に汗をかいたまま他の選手のスペースで寝っ転がってみた。何か言われるのか。内心、気になっていた。しかし、文句の一つも言われなかった。
「大事なのは、気にしないようにすることですよね」
誰かが怒っていても基本的には大したことではないと
それはもちろん、ピッチの上でも同じだ。ある練習で、つかみ合いのケンカが起きたとする。もちろん、そのときは周囲が止めに入る。ただ、練習が終われば何ごともなかったようにみんなは過ごしているし、翌日にはケンカの当事者同士が仲良く談笑していたりもする。
「気にしないことがやはり一番かもしれないです。誰かが怒っていとしても、基本的には大したことではないと受け止めて(笑)。何かあっても、みんな、次の日にはケロッとしているし。海外では、そんなことで悩まなくてもいいんでしょうね」
海外の環境に溶け込めたと実感したのは、セバスティアン・ヘーネス監督からこんなことを言われたときだ。
「キミは私の言うことを『はい、はい』と真面目な顔で聞くくせに、私が10メートル離れたら、もう笑っているよな(苦笑)」
昨シーズン終盤、ある練習で厳しく指導されたことがあった。伊藤も監督からの言葉に真摯に耳を傾けた。ただ、練習が終われば、またリラックスする。トップチームの練習に参加していたチェイス・アンリと談笑していたところ、監督から、“切替えの早さ”についてイジられたのだった。
「キミはなぜ、試合になるとあんなに…?」
このときだけではない。ドイツの水に慣れてきた伊藤にとって、ヘーネス監督にかけられたこんな言葉は最高の賛辞だった。