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プロ野球PRESSBACK NUMBER
大谷翔平にも鈴木誠也にも「バッティングは負けたくない」…“ドラフト9位から這い上がった男”佐野恵太29歳が語る同世代スターへのホンネ
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byJIJI PRESS
posted2024/06/30 11:02
6月27日の巨人戦で3号2ランを放ち、ガッツポーズする佐野恵太。今季も試行錯誤を重ねながら、徐々に本調子を取り戻しつつある
実はラミレスも2年掛かりで準備していた。2019年に佐野を11試合、4番でスタメン出場させたのは、翌年以降に筒香がいなくなることを想定した抜擢だった。下地を整えたうえで、大役を任せたのである。
指揮官の我慢強さはグラウンドでも現れた。4番で固定された2020年は開幕から、なかなか本塁打が出なかった。ネフタリ・ソトらが前を打ち、宮﨑敏郎らが後ろを固め、強打者に挟まれる格好になり、「つなぎの4番」とも称された。それでも、ラミレスは佐野を4番から外さなかった。
一発が出たのは、7月22日のヤクルト戦(横浜)である。28戦目、116打席目でのシーズン1号は、12球団の開幕4番で最も遅いアーチだった。ラミレスが辛抱して使い続けると佐野の打撃は一気に上向いた。ここからアーチを固め打ちし、75試合で20本塁打と量産したのだ。とりわけ、10月には球団タイ記録となる5試合連続本塁打を放った。
「得点圏打率.059」を覆したサヨナラヒット
その2年前、レギュラーを窺っていた佐野には印象深い打席があるという。
「プロ2年目に初めてサヨナラヒットを打った時はすごく憶えています。あの打席から、自分の中で勢いがつきました。当時、一、二軍を行ったり来たりが続いていて、二軍落ちのプレッシャーがある中でも打てたのが自信になりました」
2018年6月29日の広島戦(横浜)は土壇場の8回に3点差を追いつき、9回も1死一、二塁のチャンスを迎えていた。ここで代打起用されたのが佐野である。初球でケリをつけた。アドゥワ誠が投じたチェンジアップをすくうと打球は右翼線をはずんだ。
この試合まで得点圏打率は.059だった。勝負どころの代打に抜擢される成績ではない。それでも、ラミレスは迷わなかった。佐野の力を買っていただけではない。重圧がかかる局面での心の強さを試していたのである。地位は人を作る。そのことをわかっていた監督のもとで、素質を開花させていった。