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バレーボールPRESSBACK NUMBER
「おかんのハンバーグが一番好き」高橋藍の母が涙ながらに明かした壮絶な子育て期「中学生になっても、新しい靴を買ってあげられなくて…」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byTakahisa Hirano
posted2024/04/19 11:02
イタリア密着取材で笑顔を見せる高橋藍(22歳)
「私が夕飯をつくる頃に藍がちょうど昼食をつくっているので、お互い料理をしながら、今日はこんなことがあったと聞くのが楽しくて。大学で初めて親元を離れてからも、私は心配だからしょっちゅう連絡していたんです。でもその時は“了解”ぐらいしか返ってこなかったんですけど、離れて、藍も最初は不安だったんでしょうね。毎日連絡をくれて嬉しかった。最近はすっかり慣れてきたからだんだん回数が減って、ちょっと寂しいんですよ(笑)」
渡欧して3年。小百合さんは毎シーズン、機会をつくってイタリアを訪れている。ホテルはとらず、実家にいる時と同じように現地の自宅で過ごす。練習に向かう藍を見送り、洗濯や料理をして、試合はもちろん、時間があれば練習にも足を運ぶ。
バレーボールに関してはほぼ口出しせず「頑張れ」と送り出すのみだが、遠征が続く日本代表と海外生活と慌ただしい日々を過ごすからこそ、「できることはしてあげたい」と母の顔を覗かせる。
「藍の好物はハンバーグと中華丼。麻婆豆腐も好きですね。あとは大根の葉っぱをごま油とジャコで炒めて食べるのが好きなので、帰省したら絶対につくります。本当はイタリアでもつくってあげたいんですけど、大根の葉っぱはさすがに手に入れられないですからね」
「おかんのハンバーグが一番好き」
兄の塁、藍の3歳下の妹・莉々(りり)さんの3兄妹。食べ盛りが3人もいれば食費はかさむ。経済的に余裕がなかった当時を思い出し、小百合さんは涙を浮かべる。
「藍が中学2年になる頃まで、塁のおさがりばかりで……新しい靴も買ってあげられなかったんです」
それでも、藍から「買ってほしい」とねだられたことは一度もない。むしろ「これがあるからええやん」と自ら兄のおさがりを喜んで履いた。食費を節約するために工夫を凝らした“かさまし料理”も「おいしい、おいしい」と頬張った。母にとって、その姿を見るのが何より幸せだった。
「ハンバーグも豆腐たっぷりやし、鶏のから揚げをつくる時も、鶏むね肉と同じぐらいの大きさに切ったジャガイモも入れるんです。同じタレにつけて味付けをして揚げるから、お肉の量は半分だけど、お腹いっぱいになるまで食べられる。塁は子どもの頃に食べられないものが多くて、給食を食べるのもひと苦労だったんですけど、藍は好き嫌いなく何でも食べるから『塁の分も給食、食べてきてな』って言うと『任しとき!』って。
今でもたまに、藍が取材で『おかんのハンバーグが一番好き』と言ってくれているのを見ると、それだけで10年寿命が延びたと思うし、ありがとう、って。もっとああしてあげたかった、こうしてあげたかったって後悔ばかりですけど、その言葉だけで子育て成功だったって思えるんですよ」