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8馬身差の衝撃デビューに武豊は「追えば飛ぶかもしれない」…あの“消えた天才”サラブレッドが「ディープ級」の期待を背負いつづけた理由
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2024/04/11 11:03
名手・武豊に「飛ぶかもしれない」と言わしめたオーシャンエイプス。「ディープロス」の競馬界で大きな期待を集めた
前との差を縮めながら4コーナーを回り、先行する内の2頭に並びかけて直線へ。
右手前のまま内に切れ込みながら、あっと言う間に先頭に躍り出た。武がステッキを右手に持ち替えて進路を修正すると、手前を左にスイッチし、さらに末脚を伸ばす。
武は手綱を持ったままなのに、後ろとの差が見る見るひろがって行く。ラスト200m手前で、武がターフビジョンに目をやってリードを確かめた。
後続との差はさらにひろがり、ラスト100mあたりで、武は、今度は股の下から後ろとの差を確認した。
激しい2、3番手争いを繰りひろげる馬たちを尻目に、オーシャンエイプスは、軽く流したまま2着を8馬身突き放してゴールした。
呆れるほどの強さだった。
レース後、武はこうコメントした。
「追えば飛ぶかもしれない」
その言葉に、「ディープロス」にとらわれていた私たちは食いついた。
「飛ぶ」というのは、武がディープの走りを評して使った言葉である。こんなに早く「ディープロス」を埋めてくれる駿馬が現れるとは――。
ディープを知る武豊が「この馬も『飛べる』素材です」
一躍注目の的となったオーシャンエイプスの次走は、2月11日のきさらぎ賞になった。
500万下(現行の1勝クラス)を使うのではなく、「飛び級」での重賞挑戦となることに、誰も疑問を抱かなかった。
きさらぎ賞の追い切りに騎乗した武は、自身の公式サイトにこう記した。
「これは本物だと思います。ディープインパクトと比較するのはまだ早すぎますが、この馬も『飛べる』素材です。今朝だって、軽くですが飛んでいました」
新馬戦直後の「飛ぶかもしれない」から「軽く飛んだ」へとステップアップした。ならば、次は「思いっきり飛んで」圧勝するに違いない――と多くのファンが考えた。
その結果、オーシャンエイプスは、単勝1.3倍の圧倒的1番人気に支持された。
きさらぎ賞のゲートが開き、8頭の出走馬がターフに飛び出した。
オーシャンエイプスは後方の外目をマイペースで進む。
3コーナーを回りながら、先頭のアサクサキングスがロングスパートをかけ、2番手との差を7、8馬身にひろげた。
それを追いかけるようにオーシャンエイプスは3番手までポジションを上げ、4コーナーを回って行く。
アサクサキングスが先頭のまま直線に入った。オーシャンエイプスは3馬身ほど後ろで仕掛けのタイミングをはかっている。あとはここから「飛ぶ」だけだ。