炎の一筆入魂BACK NUMBER
「ここにいる時点でラッキー」カープの196cm右腕・アドゥワ誠が無欲でつかみ取った5年ぶりの先発勝利
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2024/04/08 11:00
スリークォーター気味に腕を下げた今シーズンのアドゥワの投球フォーム
心が乱れなかったからこそ、腕の振りが小さくなることもなかった。ピッチャープレートからリリースの位置までの距離を指す、エクステンションがアドゥワの最大の持ち味。1.95mが昨季12球団平均とされる中、アドゥワは2.20m前後だという。18.44mを隔てた戦いの中で20~30cmの差は決して小さくはない。
「肘を下げたときに痛くないから振れるようになって、自然と前になったんだと思います。手術する前はどうしても痛みをかばいながら、探るように腕を振っていた」
打者の手元で球が動くというもうひとつの武器を生かして、高卒2年目の2018年に中継ぎで53試合に登板した。その後は伸び悩み、時代の流れに乗るように筋力強化で力強さを求めたが合わなかった。肘に痛みを感じるようになり、20年オフに右肘を手術。そして、二軍で2年ぶり実戦登板を果たした22年シーズンのオフに右肘を下げたことが転機となり、新たな武器を得ることとなった。新井貴浩監督も成長を認める。
「腕を下げ気味にして球威も増した。もともとコントロール、フィールディングは申し分ない。(先発転向は)まだ若いし、もう1回先発に挑戦したらおもしろいんじゃないかと思って提案した」
25歳の再挑戦
動く球質や球種、そしてクイックや牽制、フィールディングの器用さもあり、先発として輝こうとしている。18年とはまた違う輝きであり、新たな野球人生を切り拓くチャンスだと言える。チームに今季初勝利をもたらして、少しは欲が出ても不思議ではない。
「いやー、ないっすね。自分で成功するとも思っていない。ここにいる時点でラッキーくらい。何億ももらっている打者と対戦して、自分の年俸を考えれば向こうが打つのが当たり前でしょう、というくらいに思っています」
またも肩すかしをくらった。始まったばかりの長いシーズン、アドゥワは立場や環境にも左右されることなく、その長い腕を振っていく。